Evening/Good bye
Evening/Good bye-1
朝が終わり、昼となり、だが夜はまだ遠い。太陽が地面へと姿を隠し始め、星々が瞬き始める、交わる時、黄昏となった。
その中を、赤い陽に照らされながら、四つの影が歩いていく。
シズカ、トオル、ヤスユキ、アキの四人だった。
目指す先には、白い外壁を赤く染めた廃墟ビルが聳え立っている。
「ねえ、今日、来るかな?」
トオルが瓦礫を乗り越えながら、不安そうに訊ねた。だが、他の三人は黙々と進むことに集中して、答える様子がない。トオルも溜息を吐いて、それに続いた。
誰しもが、不安を抱えているのだろう。
もし、誰も来なかったら、これから先、どうすればいいのか。来たとしても、ヒカルと関係なかったら。
「……昨日、前に僕が話した〝夜のヒカリガオカを守る会〟に、九頭がここに来ているようだ、って書き込みがあった。ヒカルが来なくても、それならそれであいつを追えばいいし、もし誰も来なくても、また新たな手がかりを探すだけだよ」
シズカが、やっと応えた。だがそれは、まるでその方がいい、と言っているかのようだった。
「全然知らない奴がいたら?」
「その時も、同じだよ」
色々と口にするが、彼らが不安なのはそんなことではなかった。
もし、ヒカル以外の誰かが居て、そいつが、自分たちの知らないヒカルを教えてきたら?
そう、彼らは本当はそれに一番、怯えていた。
口でも、心の中でも、自分たちが見てきたヒカルを信じる、と言っているし、思っている。だが、万が一、裏切られたら。そして、自分たちが本当に裏の世界に足を踏み入れられるのか、にも恐怖を覚えているのだろう。それが、ついに現実味を帯びてきたのだ。
今までは、ある意味探偵ごっこの延長だった。それが今、本物に触れようとしている。そのプレッシャーが、彼らを無言にしているようだった。
そしてそれを言葉にしてしまったら、どうなるか彼らにもわからなかった。だから、彼らは無言でただ、進み続けたのだろう。
やがて、ビルの真下に辿り着いた。
ぼんやりと外観を見上げ、視線を一階に戻す。その開け放たれたフロアは、どことなく彼らの朝のあの場所を思い起こさせた。
「これもあるから、ヒカルはここに来てたのかな……」
皆同じことを考えていたのか、トオルの呟きに三人も微かに頷きをみせた。そして、息を吐き、思い切ったように一歩を踏み出す。
四人の姿が、大きく口を開けたビルの中に、吸い込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます