Night/5-4

「それか」

 思わずアラタが呟き、三人と目を合わせた。

「……そんな簡単で、いいのか……?」

 しかし、シンジロウが冷静に押し止める。

「それはそうだけど……」

 シュウが上目遣いでアラタに確認する。

「他に、何か思い出すことはないか」

 慎重に、アラタがレミに訊ねる。レミはぼうっとしたまま空中を眺めていたが、やがて首を振って、息を吐いた。

「もうないわね。思い出さない。まああたしもそんなにあいつと関係深かったわけでもないし」

「そうなの?」

 シュウが訊ねる。レミは頷いて、にやりと笑った。

「そうよ? 私がまず、あのろくでもない野郎のクスリに嵌まってたら、横からあいつが寄ってきて、もっと質が良いもんを安価で売るから、って言うんで、付いていったの。それは、まああいつの言う通りだった。そっからほっぽり出されて、あいつに逆戻り。まああいつも、何か変わったみたいだけどね。あ、そういうことだから、あんたが思うような関係はないよ」

「なっ、何だよ、それ。別に何も想像してないし」

 シュウが少し顔を赤らめたようにそっぽを向いた。

「まあ、収穫あったほうなんじゃない? 〝ヒカル〟にとっちゃ顧客のひとりなだけだろうし、プライベートな情報ひとつ手に入っただけで、充分でしょ」

 マキが寝そべってパソコンのキーボードを叩きながら呟いた。

 アラタは頷き、瓦礫から腰を上げると、レミの前に立ち、手を差し出した。

「ん? 何?」

 レミが半眼でその掌を見つめて、アラタを見上げる。アラタは真剣な表情で手を差し出したまま、応えた。

「握手だ。情報提供に、感謝する」

「は? 何それ。あんた、バカなの?」

 蔑むような目つきをするレミに、アラタは動じず、変えることなく掌を向け続ける。

「俺たちは、この場所を守るために、動いている。この場所を侵害しないなら、恨む必要はない。復讐をし続けて、無駄に戦いを続けることの方が、馬鹿げてる」

 レミは、無言でアラタを見続けた。シンジロウが、ぼそり、と呟く。

「……お前はお前で、守るものが、あったんだろう……。……だから、これ以上は、関わらない……」

 レミはぴくりと肩を震わせ、その肩を自ら抱いてから、片手をおずおずと差し出した。

 アラタがじっとその手を待ち、辿り着いたところで、手を握る。

「……あんたたち、変わってるわ」

「そうかもな」

 アラタは手を放し、そのまま振った。

「それじゃあ、おやすみ」

 出口を指し示す。レミはそちらを眩しそうに、目を細めて見てから、再び振り返って笑った。

「でも、あいつの方が、もっと変だったかも。見つかったら教えてよ。あんたたちも嫌いじゃないし。じゃ、おやすみ」

 後ろ手で手を振って、レミは儚い笑みを残し、その場を去っていった。


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