Morning/5-2

 トオルは焦らすように空を見上げ、足取り軽く自転車を押した。それを見守りながら、アキは溜息を吐く。

「なんなのよ。シズカがいないと言えないの? だったら、後にして」

「ごめんごめん! 言う、言うよ!」

 トオルが慌てて自転車を止めて、アキの前に躍り出る。

「わかったから。で、何?」

 首を傾げるアキに、トオルは満面の笑みに戻って言った。

「うん、〝ヒカル〟の目撃情報が手に入ったんだ」

 トオルの言葉に、ふたりが固まる。「へへ」とトオルは自慢げに鼻を擦った。

「大問題じゃない! 何で朝まで黙ってたの? ほら、シズカんとこ行くよ!」

 アキがやっと硬直から解けると、血相を変えてトオルの肩を摑み、揺さぶった。そしてすぐさま放し、自転車を押して坂を駆け上がる。

「マジかよ! それ、ほんとなんだな?」

「う、うん」

 今度はヤスユキに肩を摑まれ、その形相に戸惑いながら頷くトオルだったが、ヤスユキはそれを確認すると、「よし」と呟き、自転車に跨って颯爽と漕ぎ始めた。

「先にシズカに伝えとく! お前も早く来いよ!」

 ごしごしと力強くペダルを回し、アキを抜き、立ち漕ぎでヤスユキは去っていった。

 取り残されたトオルが、はっと気がつき、慌てて自転車を押して走り出す。

「待ってよ! 僕が居ないでどうするの!?」

 朝から、閑静な住宅街で、騒がしい一日が始まっていた。


「なるほど、そういうことか」

 いつもの場所に集まった四人は、トオルの話を聞き終え、それぞれ思い思いに考えていたが、最初に口を開いたのはシズカだった。

 シズカは、自分が体力がないことを自覚しているので、三人の中で一番早く家を出ている。そのため、いつもの場所にもいつも早く着いていた。

「うん、なんかごめん……」

 話し終えたトオルは、しょぼくれて上目遣いにシズカを見た。トオルがもたらした情報は、〝過去に、街の廃ビルに女子と入っていくヒカルを見た〟という、昔の話だったのだ。廃ビルの様子や女の子の容姿を丁寧に説明はしたが、それも最初の落胆を取り返すまでにはいかなかった。

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