Morning/5

Morning/5-1


 事務所を訪ねた翌朝。

 相変わらず空は晴れて厳しい日差しが照りつけている。

 その日差しにうなじを晒しながら、アキは自転車を押して坂道を歩いていた。白い肌に、汗が浮かび、流れていく。

 その日差しを避けるためか、それとも考え事をしているのか、アキは俯いてだいぶゆっくりとした足取りで進んでいく。

 後ろから、その坂道をがしがしとチェーンを回す音が聞こえた。ペダルを踏み降ろすたびに小気味良くカシャン、と音を立てる。

 徐々に細かな息遣いが聴こえ、アキの横に並ぶと、その主は自転車を降りた。

「おう、アキ」

 薄い制服のシャツをそのまま肌に来て、うっすらと張り付かせて筋肉を見せている。ヤスユキだった。笑うと、黒い肌に白い歯が眩しい。

「あら、おはよ」

「なんだよ、素っ気無いな」

 相変わらず朝から元気なヤスユキに、アキが眉をひそめる。

「そりゃそうでしょう。昨日、結局何の成果もなかったんだから」

 あの後、ヤスユキは部活でいなくなったので詳しくは知らないだろうが、調査の結果はLINEで共有しているのでわかっているはずだった。それに、苛立っているのだろう。

「別に、たった一日でどうにかなるわけじゃないだろ。大丈夫だって。いい感じで進んでるじゃん。丸一日探したわけじゃないんだろ? じっくり進めようぜ」

「そうだけど……」

 アキが唇を尖らして黙りこむ。確かに、彼らはそれぞれ午後から予定があり、九頭の生息時間であろう夜を調べることはできていなかった。

「でも、私たちが早く見つけないと、ヒカル、どうにかなっちゃうんじゃないか、って不安なの。わかるでしょ?」

「まあ、そりゃあな……」

 ヤスユキは頬を掻き、それに同意する。ふたりは視線を逸らし、気まずい様子でゆっくりと坂を上った。

 すると後ろから軽快にペダルを回して風を切る音が聴こえ、車輪を滑らして一台の自転車がふたりの横に飛び出てきた。

「おっはよう! どしたの? ふたりとも」

 トオルだ。トオルも何故か元気で、ぴょん、と自転車から飛び降りると、アキの横に立って嬉しそうに彼女を見上げた。

「何?」

「ううん? べっつにー」

「噓。なんかあるんでしょ? 言ってよ。気になる」

「どーしよっかなー」

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