Night/4-8

「違うよ」

 アラタが、指の隙間から声を洩らした。俯いてたふたりも、その声の優しさに顔を上げる。

「違うんだ。俺は、お前たちと、ここで、過ごすことに意味を感じてるんだよ。逃げ続けても、同じことが起こるだけだ。自分で見つけた、ここで出会ったお前たちを、大切にしたい。場所が変わったら、駄目なんだ」

 その言葉に、シンジロウが薄く笑った。

「……なら、どうする……?」

「やるしか、ないよね」

 シュウが立ち上がった。マキも、真剣な顔で、床の一点を睨んで呟く。

「僕も、逃げたくない」

「……だ、そうだが……?」

 それを受けて、シンジロウがアラタに顔を向けた。

 アラタは手の覆いを取り、三人を見渡した。目には力が宿っている。

「だよな。〝ヒカル〟だけじゃない、あの屑も参るような、証拠を見つけよう」

「……ああ……」

 フッ、と笑い、シンジロウが頷いた。今日のシンジロウは、よく笑う。それに勇気を得たように、アラタが立ち上がった。

「まずは、やっぱり〝ヒカル〟だろうな。それぞれ調べて、また明日、持ち寄ろう。もう後戻りはできない。……いいのか?」

「今更」

「それ、訊く?」

「…………」

 マキが顎を引き、シュウがうんざりと返す。シンジロウは黙ったままだったが、優しい笑みを浮かべていた。

「じゃあ、また明日。必ず、俺たちの場所を、取り戻そう」

 全員が、見つめあい、頷く。

 アラタが手を挙げ、それに続くように、三人が手を伸ばした。掌を打ち付けあう、甲高い音が響く。

 目で頷きあい、四人はそれぞれの方向へと分かれた。

「今日はおやすみ」

挨拶を交わす。月明かりが、彼らの道を照らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る