Night/4-7

 協力して縄を切りながら、九頭の出て行った扉を見つめ、アラタが呟く。

「このまま帰っていいってことか? なんか、無用心過ぎないか?」

「……今日、初めて使った、使い捨てのアジトなんだろう……」

「ああ、そうか。しかし、やけにあっさりだったなあ」

「さっき話してたように、なんだかんだで情報欲しいんじゃない? あいつも」

 シュウが意外とあっけらかんと言い放つ。

「だといいんだが……」

 縄の後のついた手首をさすりながら、アラタは目を瞑り、膝に手を置いて立ち上がった。

「ま、考えても仕方がないか。行こう」

 三人もそれに続き、部屋を出る。監禁されていたビルはかなり古いようで、エレベーターがついていなかった。入居者も、いるのかいないのかわからない。鉄製の重たい扉や、ひびの入った白い壁が年月を感じさせる。

 階段を下りてビルを出ると、既に街には夜の帳が下ろされていた。遠くから繁華街の音が聴こえる。あの廃墟にも近い、寂れたビル群の一角だったようだ。

 騒がしい音を遠くで聞きながら、四人は無言で裏路地を歩いた。時折転がるコンクリートの破片を蹴飛ばすと、驚いた猫が走り去っていく。

 気がつけば、いつものあの場所に来ていた。

 廃墟へと侵入し、だだっ広いフロアの中央に集まる。

 誰ともなく腰を降ろし、視線を合わせずただ黙り込んだ。

 騒音は消え、時折通る車の音や、虫の音が聴こえる。

「悔しいよな」

 ぽつり、とアラタが呟いた。唇を噛み締めながら、三人は無言で頷く。

 アラタが外へと目をやった。窓のない空間から見える月は、はっきりと、大きく見えた。肉付きがよくなってきている。そろそろ満月だろうか。

「結局、大人にいいようにやられるのか?」

 月が、雲に隠れた。

「本当の自分で居られる場所を求めて、それでも追いやられて、やっとここに来て、ここをなくしたくなくて動いたのに、結果、これなのか?」

 アラタは頭を振った。

「……もう、止めて、ここを去るか……?」

 シンジロウが呟いた。アラタが顔を上げ、シンジロウを見た。シンジロウが、顔をアラタに向ける。

「……ここに拘らなければ、また場所など、見つけられる……」

 アラタは顔を手で覆い、喉を見せた。悩むアラタに、シンジロウが続ける。

「……どうする……? ……何も、わざわざ、危険に首を突っ込む必要など、ない……」

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