Morning/4-8
「さて、と。じゃあ、どうする?」
事務所のあるビルを出て、繁華街を歩きながらヤスユキが頭の後ろで手を組みながら聞いた。なんでもないように、ぷらぷらと歩いているが、どこか肩には力が入っているようにも見えた。
三人はそれに応えられず、黙って歩き続ける。
繁華街も昼に近づき、徐々に人通りが増えてきていた。会話が響き、ざわめきが通り過ぎていく。しかし、気まずい沈黙は、確かに存在したままだった。
シズカが、ゆっくりと、その口を開く。
「覚悟は、した、つもりだった。でも、本当に目の前に本職というか、犯罪の姿を見せられると、こんなにも怖いものなんだね」
シズカはいつの間にか握り締めていた拳を開いた。掌にはじっとりと汗が滲んでいる。
「ここから先は、引き返せないよね……」
トオルも、後ろ手を組みながら、石でも蹴るようにして道をとぼとぼと歩く。
男三人が三人とも、あらぬ方向を見て、ただ歩くことしかできなかった。その真ん中を、黙って俯いていたアキが、ぽつり、と呟いた。
「……やるよ」
「え?」
シズカが振り返る。
「なんだって?」
ヤスユキが訊いた。
「なあに?」
トオルが、首を傾げる。
アキが立ち止まった。三人も立ち止まり、それを、見守る。
アキが顔を上げた。午前中の明かりが、アキの顔を照らす。
「私は、やるよ。ひとりでも、やる。自分がどうなったっていい。自分が一番大切。そう教えてくれたのは、ヒカル。でも、自分以外に大切なものもあることを教えてくれたのも、ヒカルなの。私は、やる」
しっかりと前を見据えるアキを見て、三人が頬を緩めた。
「やっぱりな。アキなら、そう言うと思ったよ」
ヤスユキが肩を竦めて、ふう、と息を吐いた。その息と共に、体から力が抜ける。
「アキには、いつも驚かされるよ。君の勇気はどこからくるんだろうね」
シズカは眩しそうにアキを見つめ、そして笑った。
「僕も、そうだ。アキ、まだ一緒にヒカルを探させてくれるかい?」
アキが、シズカに焦点を合わせ、にっこりと笑った。
「もちろん!」
「僕も!」
トオルがぴょんと跳ねる。
「ありがと」
アキがそちらに笑みを向けた。
「じゃ、行きましょうか」
「待てよ。しょうがねえなあ、俺も最後まで付き合ってやるよ」
「別にいいわよ? 無理しなくても」
「……! わ、わかったよ! やらせてください。お願いします!」
ヤスユキが、勢い良く頭を下げた。アキは腕を組み、鷹揚に頷く。
「うむ。よろしい」
「なんだよ、それ!」
ヤスユキが顔を上げて絡むが、素早く避けて、アキが笑った。
「あはは! ま、いいじゃない! さあ、じゃあ行きましょ!」
そして太陽に向かって、走り出す。三人が眩しそうにそれを眺める。
「何してるのよ! 早くぅ!」
アキが光の中で手を振って、三人を呼んだ。三人はめくばせを送りあい、そして頷き、走り出した。
光の中に、四人の影が、吸い込まれていく。
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