Morning/4-7

「〝天使〟じゃなく扱ってなんて、いくらでもしてやるわよ。それより、今私たちに心配させてる方が問題じゃない。何が気にせず、よ。普通の友達なら、心配するわ。それが当たり前でしょ? だったら、探すわよ。あいつが嫌だった、って言っても、知らない。だったら心配させるな、って言うのが、本当の友達じゃないの? あいつの思うままにして上げるのが、友情なの? そんなの、あいつに嫌われたくないだけでしょ!」

「悪かった」

 最後にアキが叫んだところで、咄嗟にシズカがアキの頭を抱え寄せた。ヤスユキも、トオルも、同じように抱え込む。

「ごめんね、アキにだけ、そんなに考えさせて」

「お前が正しいよ。俺たちが、弱かった。もうぶれない。俺たちは、あいつを見つけ出して、心配させんな、って殴ってやる」

「ごめん。僕たちは、まだまだ甘かった。本気じゃなかった。誓うよ、これからは、本気で探す」

「ほんとに……?」

 三人に謝られ、真ん中に覆われるように俯いていたアキが、目元を拭いながら言った。

「ああ、本当だ」

 ヤスユキが応え、ふたりも頷く。

「……じゃあ、許してあげる」

 アキが顔上げ、顔を輝かせる。それを見て、三人がほっと肩の力を抜いたところで、後ろから声をかけられた。

「青春ねえ」

 慌てて輪を壊し、ばらける。笑いながら煙草を銜え、後ろから歩いてきたのは、先ほどの部屋から出てきた怜香だった。

「いや、でも、あなたたちの言い分が正しいわ。私も、彼の白さに、影響され過ぎちゃってたのかしらね」

 後ろ頭を掻きながら、怜香は四人の前に立ち、頭を下げた。

「大人として、ごめんなさい。判断は、あなたたちにさせるべきだった」

「い、いや、そんな」

 少し警戒して怜香を睨むアキを後ろに、シズカが慌ててそれを止めさせた。だが怜香はそんなこと気にする様子もなく頭を上げると、にっこりとアキに微笑んだ。

「それで、お詫びにあなたたちにひとつ情報をあげる」

「え……?」

 戸惑うアキを余所に、怜香が煙草を吸って、勢いよく煙を吐き出した。昨今の禁煙事情の中、この事務所は喫煙オーケーなのだろうか。

「ヒカル君は、ずっとクスリに嵌まっちゃうような、弱い女の子を助けるのに最近夢中だった。そういう子に、夢や希望を与えるために、うちを紹介してたんだけどね」

 煙草を今度は携帯灰皿に入れ、仕舞う。

「どうもこの街で急に幅を利かせてきた奴がいるらしいの。そいつのこと、凄い気にしてた」

 仕舞った胸ポケットから、今度は写真を取り出した。それをシズカに渡す。

「この男。名前は九頭竜一。見た目は坊主でどんぐり眼でちょっと愛らしいかもだけど、最低最悪の男だ、って聞いてる」

「あの……堤さんはなんでこの男を?」

 トオルが当然の質問をするのを、怜香は頷いて片目を瞑った。

「こちとら、地方とはいえ芸能界の端くれに生きてるのよ? こういった情報は、嫌でも入ってくるわ」

 そして「じゃ、後は好きにしなさい。それ、あげるから」といい、四人の間をすり抜けていく。アキの横に来た時、肩に手を置き、耳元に口を寄せた。

「あなたも大変ね、お姫様」

「え?」

「いいえ、なんでもない。じゃあね」

 後ろ手に手を振り、怜香が去っていく。

 それを見送りながら、トオルがぽつりと呟いた。

「やっぱり……」

 芸能界は、怖いところである。それを再確認して四人は頷き、その場を跡にした。

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