Morning/4-2
扉から出てきたのは、黒々と焼けたスポーツ刈りのマッチョだった。タンクトップを着て、筋肉を主張している。それを見て、ヤスユキがそれとなしに自分の腕と比べていた。
うんうんと頷きながら、アキの手をとり、有無を言わせず中へと連れて行く。アキがわけがわからず振り返るが、トオルは微笑んで手を振り、アキを送り出した。
シズカが、やっとこさ金縛りから帰って、トオルに訊く。
「えっと……これは、どういうこと?」
「いや、騙す形になってごめん! アキにひとりでレッスン受けてもらう、って言っても絶対嫌がるでしょ? だから、ちょっとふたりにも黙っといて、連れて来たってわけ」
「なんだよ、めっちゃ緊張したじゃん! 別に、俺らには言っといてくれてもよかったのに」
「いや、ヤスは絶対にアキにばれてたからいいんだけど、僕には教えといてくれてもよかったんじゃないか?」
「おい」
突っ込むヤスユキを余所にシズカがトオルに訊くが、トオルは苦笑いをして頭を掻いた。
「いやあ、まあそれでも良かったんだけど、アキひとり辛い思いをさせるのも申し訳ないかなー、って。ぎりぎりまでふたりには一緒に緊張を共有してもらえれば、アキがショックを受ける度合いも減るかな、と思ってさ」
「……まあ、敵を欺くにはまず味方から、とも言うしね。仕方ない」
「レッスンしなくて良くなったなら、それはそれでいいしな」
トオルも頷き、ヤスユキも頭を掻きながらも納得したところで、三人はレッスン場に入った。
レッスン場は分厚い扉で仕切られており、壁には穴の開いた吸収材が貼られていて、街中にある分、音への十分な対策が感じられた。床張りのフロアに、壁は四方のうち入って左側の一面に全てガラスが埋め込まれている。
いつの間にかアキはTシャツと短パンに着替えさせられていて、あれよあれよというまにダンスの基礎を教えられていた。
アキは動きについていけず、目を回している。そんなアキを遠巻きに笑いながら三人が見ていると、ひとりの女性が横に近づいてきた。
「こんにちは」
黒スーツに眼鏡をかけた、二十代後半ほどの女性は、人懐っこい笑みを見せると、体を横に傾けた。
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