Night/3-6

 ガン!

 アラタの耳の中に大きな音が響く。最初は、中の音かと思った。しかし、徐々に痛みが襲ってくる。それと同時に自分の頭を扉に打ち付けられている事実を知り、怒りに頭が熱くなる。

 頭を持っている腕の先に目を向けると、坊主頭が無表情で立っていた。

「お前、何が目的だ」

 感情の籠められていない声が、この男は本物だと伝えてくる。

 アラタは打ち付けられたまま、男を睨みつけた。本当はこんな手、すぐにでもどかしたいのだが、異常に力が強く、微動だにできない。

 アラタがもがくと、握り潰すかのように指に力が籠められた。アラタが思わず呻く。

「無駄なことはよせ。お前は質問に答えるだけでいい」

 男は一度、ふわり、とアラタを扉から離すと、勢いをつけてもう一度ぶつけた。

 ドゴン!

「ぐぉ……」

 アラタが痛みに顔を顰める中、扉を開け、アラタをトイレに引きずり込んだ。そして、洋式便所の脇に顔を摑んだまましゃがみこみ、アラタの顔の前に自分の顔を寄せた。

「最近のトイレは綺麗になりすぎてつまらない。それでも、ここに顔を突っ込まれるのは屈辱だろう? さあ、言え」

 言ってから、男は答えを待たずアラタの顔を中に突っ込んだ。突然のことにアラタも準備ができず、いきなり水の中で空気を吐き出す。暴れるが、男の力は抜け出すことを許さない。

 暫くして、やっと男はアラタの顔を引き上げ、まだ咳き込むアラタの耳の横に口を寄せ、囁いた。

「さあ、答えろ。もうやられたくないだろう?」

 だがアラタは、咳き込みながらも厳しい目で男を睨みつけた。男がにやりと口元を歪め、またアラタをトイレに突っ込む。

 何とかその腕を外そうとするが、容易にいかない。そればかりか暴れないようにわき腹に膝蹴りを入れられ、より悶絶する結果となる。

「もう、やめてやんなよ」

 後ろから、声がした。レミだ。

 男はレミを振り返り、表情を変えずに言った。

「なんでお前が口を挟む」

 レミはびくっ、と体を竦ませながらも、視線に負けないように蓮っ葉な言葉で返した。

「なんでって、私が騙したんだから、ちょっと罪悪感あるじゃん。こんなガキ、聞けばあっさり答えるんだから、そんなことまでしなくていいでしょ」

「違う。こういうことはガキの頃から徹底的に叩き込まなきゃいけないんだ」

 そこで、男は自分の右手に反応が無いことに気がつき、顔を戻した。トイレに顔を突っ込んだまま、アラタがぐったりとしている。

「あ、やり過ぎた」

 男がアラタを引っ張り出す。

 アラタの体からは力が抜け、口からも水が零れた。

「ま、死んじゃいないだろ」

 ぽい、と捨てて、男が立ち上がった。

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