Night/2-8


 まだ耳鳴りがするような気がしながら、三人が静かな路地裏を連れ立って歩いていた。今夜はもう、することもない。廃墟に戻るのも遅いので、銘々に分かれる。

 シンジロウが先に消え、シュウとアラタがふたりになったところで、シュウが訊いた。

「アラタ、ひとつ訊いていい?」

「ん、何?」

「どうして、あの場所に拘るの?」

 アラタは少し虚を突かれ、黙ってしまう。そのアラタをシュウが覗き込むが、帽子のつばを下に下げられた。

「ちょっと、何すん――」

「……行き場のない俺が、最後に流れ着き、自分で見つけた場所だから、かな」

「自分で」

 静かにそう言ったアラタを、帽子を直しながらシュウが見つめる。アラタは、前方を見ながら、言い聞かすように続けた。

「そう、自分で。誰に与えられたものでもない、自分だけの場所だから。奪われたらもう、行く場所もなくなりそうだから。だからなくなるのは、口惜しいんだ」

「そっか……」

 シュウは呟き、闇夜に太って不恰好な月を見上げた。

 ふたりは、暫く黙って歩いてから、分かれ道に立ち、手を挙げた。

 シュウは、去っていくアラタの後ろを姿を見送りながら、誰ともなく呟いた。

「おやすみ……」

 その声は、闇に呑まれて、消えていった。

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