Night/2-7
「……まだ、早い……」
「何でだ? 今行かなきゃ、いつ会えるかもわからない」
「……危険だ……。……〝ヒカル〟を追っている人間かもしれないし、〝クスリ〟を売るような人間と関わる、ということは、情報も、タダじゃすまない……」
「だけど」
苛立つアラタに、シュウが袖を引っ張った。
「まずは尾行してみようよ。〝ヒカル〟とグルなら、どこかで会うかもしれない。どちらにしろ、何の情報もなしにぶつかるより、持ってた方が有利でしょ?」
「まあ、それは確かに……」
アラタは渋々頷き、小太りの男へと視線をやった。
「じゃあ、固まって尾行するのもバカらしいから、それぞれ別の場所から奴を見張ることにしよう」
「オーケー」
「……わかった」
三人はそれぞれ、クラブの別の場所へと移動し、小太りの男へと気づかれないよう視線を送った。
小太りの男は、きょろきょろとフロア内に視線を巡らせては人にぶつかられて驚いている。どうもクラブに慣れていないような、そんな印象を受ける。だが、たまに女性に話しかけては、無視をされている。
やがて、諦めたのか溜息を吐くと、立ち止まり、奥へと消えた。トイレにでも行ったのだろう。
しかし、だいぶ経っても出てこなかった。三人がそれぞれに視線を送り、アラタがトイレへと向かう。
音に呑み込まれるように体を揺らす人々の間をすり抜けると、少し音が小さくなる。トイレを、ノックした。
しかし、返事が無い。
アラタはもう一度ノックをし、返事が無いのに舌打ちをすると、思い切って扉を開けた。
そこには、誰もいなかった。
「やられた……」
アラタはフロアに戻ると、ふたりを連れ、誰もいなくなったトイレの前に佇んだ。
「え!? 何で!? バレたの?」
「……それか、常にこうしているか……」
「用心のため、か。どちらにしろ、今日はこれでしまいだな。ゲーセンももうやってる時間でもないし」
アラタは時計を見て、背を伸ばした。
「ま、収穫はあった! これを続けていこう。さ、さっさと出よう、こんな煩いとこ」
アラタは気持ちを切り替え、さっさと店を出て行く。
残されたシンジロウも、シュウにちらり、と視線をやり、シュウが頷くのを見ると、アラタに続いた。
ひとり取り残されたシュウが、誰もいなくなったトイレを物珍しそうに見てから、視線を残しつつ、その場を去った。
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