Night/2-5

女の肩を摑み、体を揺する。その腕の細さに驚きながらも、アラタは腕を放さず目を覗き込んだ。

「それで、どんな奴だった?」

「待って……。痛いから、放して……。それに、噂かもだし、私が言ってる奴とあんたが思ってる奴は、違うかもしんないよ?」

「いいんだ。この街に〝悪魔〟と呼べるような奴なんて、そういない」

 アラタは首を振り、女の顔をじっと見た。

「〝悪魔〟は殺しをやったんじゃないかと思ってる。しかも、そんなことをしたくせに〝クスリ〟をまだ売って歩いているらしい」

「……まあ、そりゃ確かに〝悪魔〟と呼んでもいいかもね」

 女は自嘲気味に、それが癖なのか口の端を上げると、煙草をひと吸いしてから、顔を上げた。

「もし私がクスリに嵌まったのを裏であいつが仕組んでたとしたら、〝悪魔〟以外の何者でもないね。あいつは、そんな私の許にやって来て、言ったんだ」

「何て」

 三人が、食い気味に顔を寄せる。それを避けるように女は煙草をまた吸うと、顔を背けてぽつりと呟いた。

「え?」

 聴こえなかったのか、背の低いシュンが背伸びをする。それをじろりと女が見て、笑った。

「俺が、助けてやる」

 そう言って、やはり口の端を持ち上げる。

「だってさ。そう言って手を差し伸べて、その手を放り出しやがった。弄んで、楽しんでんだろうね」

「名前は?」

 アラタが訊いた。シュンは考え込むように俯き、シンジロウも顎に手を当てている。

「私? レミ」

「いや、その男」

「ふふ、わかってるわよ。でも、誰が男だ、って言った?」

「違うのか?」

「そうだけどね。〝悪魔〟らしくない名前だったよ」

「〝ヒカル〟か?」

 アラタが、前のめりに訊く。女・レミは頷き、渇いた笑いを見せた。

「ははっ、やっぱり、〝悪魔〟だったんだね」

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