Night/2-4

「へ? どうして?」

 ふたりが話しかけているのを見つけて駆け寄ってきたシュウが訊ねるが、アラタは笑みのまま、シンジロウは無表情で、女に示された場所へ向かった。そちらにシュウを押しながら、アラタが耳元で囁く。

「酒を取ってくる、ってのは方便で、クスリを打ちにいったんだよ」

「!」

 シュウが顔を強張らせるが、それを周囲に悟らせないようにアラタは押し流す。

「踊っているうちはいいんだ。平常に戻ると、途端に切れてまともに話せなくなる。俺達も、話を聞かなければいけないから、ここはしょうがない。目を瞑ろう」

 シュウは女の去った方を見て唇を噛み締めたが、アラタに素直に従い、テーブルに着いた。

 三人でテーブルを囲んで、特に何も話さず、女を待つ。女は待つことなくふらり、と現われた。その視線は先ほどと違い定まっていて、シニカルでどちらかといえば精悍にさえ見えた。

「お待たせ。それで、私に何を聞きたいの」

 女は手にしたハンドバッグから煙草を取り出しながら訊いた。一本口に銜え、火を点ける。

「悪いな。誰も煙草を吸わなくて」

「いいのよ。気にしないで。それで?」

 もう一度女が訊ねると、アラタが頷いて口を開いた。

「おねえさん、〝悪魔〟みたいな奴に声かけられなかった?」

「〝悪魔〟?」

 女が、不審げに眉をひそめる。

「そう、悪魔。おねえさんを闇に誘い込み、地獄へ堕とすかのような」

 その発言に、女が口の端を引き攣らせた。

「はは、何よそれ」

 だが、アラタの顔は真面目だった。

「本気なんだ。そいつを探してる。そいつに、俺たちの場所を、奪われたくないんだ」

 その真剣な眼差しに、女は目を逸らして息を吐いた。

「……まあ、そんなやつ、いた、かもね」

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