Morning/2-6

 白いブラウスと藍色のスカートが陽に映えるのを見送りながら、ヤスユキが溜息交じりに頭を掻く。

「まったくよう……。ま、いいや。じゃあ俺は運動部を中心に聞いてみっから。また明日な」

 スポーツバッグを担ぎ、ヤスユキが場を後にする。ガシガシと坂を力強く登っていった。

 残されたふたりも、自転車に跨ってゆっくりとペダルを漕ぎ、その場から滑り出した。

「僕等はどうする?」

「そうだねー。僕は結構校外に友達多いから、そっち方面に聞いてみるよ。シズカは?」

「僕は、ネットを中心に呼びかけてみる。引き籠ってた頃の名残で、ある程度の校内ネットワークは把握しているから」

「あはは。引き籠ってたけど、校内のことは気になってたんだ」

「そうだな」

 シズカは苦笑して、前を向いて懐かしむように目を細めた。

「小説の世界も、数学の世界も、外の世界と繋がっているはずなんだけど、時折怖くなるんだ。実は世界に自分しかいないんじゃないか、って。だから、繋がっている、自分の知っている世界がそこにあることを確認したくなる。わかる、かな」

「わかるよ」

 トオルは頷き、一緒に前を見た。

「いや、僕も、わかるようになった、よ。ヒカルのお蔭で。やっぱり自分が居る世界にも、できれば否定されたくないよね。否定されない世界も素敵だけど、実社会も大切で、要はバランスかな、って思うんだ」

「そうだな。そのバランスも、実感も、教えてくれる人が居ないと、わからなかった」

 トオルとシズカは、暫く黙ってふたりで前を見つめていた。車輪が回る音がリズム良く耳に心地良く鳴り、柔らかく鳥の囀りが聞こえる。

 どこまでも世界は温かで、明るかった。

「絶対、ヒカルを見つけような」

「うん」

 ふたりは頷きあい、それぞれの道へハンドルを向けた。シズカは図書館へ、トオルは教室へと向かう。

 誰もいなくなった駐車場は、所々ひび割れて、それが年月を感じさせつつ、長閑だった。のっそりと猫が現われ、緩やかな足取りで真ん中へと進んでゆく。もっとも陽が長く当たっていて、暖かそうな場所で腰を降ろし、目を瞑った。

 遠くで学生たちの声が聴こえ始め、チャイムが響く。猫はまだ、ゆっくりと眠っていた。


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