Morning/2-4
自分は自分でしかない。そんな簡単なことに気づかせてくれたのが、ヒカルだった。
それからは、楽だった。隠す必要もないし、かといってわざわざ言う必要もない。わかってくれる人だけ、わかってくれればいいのだと思った。わかって欲しい人にだけは、少しだけ勇気を振り絞って、説明すればいいのだ。
わかってくれる人に囲まれている、というのは心の平穏をもたらしてくれる。だから、いつの間にかトオルはこの場所に必ず顔を出すようになっていた。
そんな勇気をくれたのが、ヒカルだった。だからトオルは、もしヒカルに少しの勇気が足りないのだったら、その少しでも足しになるのなら、何でもしてあげたい、と思っている。
ヤスユキは、ヒカルを憎んでいた。
小さい頃から体格にも恵まれ、運動神経も良かったヤスユキは、いつもクラスの中心だった。性格も明るく、顔も悪くない。女子にモテるのも、中学生の間は必然のことだった。
だが高校に入って、その立場は全てヒカルに持っていかれた。
女子に優しく、何事もスマートで、そつがない。ヤスユキと居ることで何かを期待していた友人も去り、気がつけばヤスユキに残っているのは野球だけだった。
だが、その野球でも躓いた。高校のレベルではまだまだ使い物にならなかったのだ。いつしか、ヤスユキの心は黒く染まり、ヒカルに全ての憎しみをぶつけるようになっていた。
それを、ヒカルに見つかった。
ヒカルはからかいながら、自分が傷つかないように、その暗い場所から明るいところへ引き戻してくれた。彼の隣りが気持ちいいからではない、本当の友情を感じ、他人の本当の気持ちを慮れるようになった。
だからヤスユキは、もしヒカルが黒い気持ちになっているのだとしたら、そこから連れ出してやるつもりだった。それくらい、してやろう、友人だから、と。
アキは、心が壊れそうになっていた。
昔から、成績優秀で、自分で言うのなんだが顔も良く、親に期待されて育ってきた。クラスでもいつも学級委員に推薦されたし、リレーなどもアンカーだった。部活はやっていないけれど、助っ人を頼まれることは多く、習い事はピアノをしていた。
その全てに、いい顔をし続けることが、辛くなってきていた。
自分じゃなくてもいいのではないか。自分に押し付けているだけではないか。
しかし、そう考えたとき、じゃあ自分は何をしたいのか、わからなくなった。他人の期待に応えたいだけ? 違う。自分にも、自分の意見があって、自分にしかできないことがあって、自分のやりたい、夢があるはずだ。
しかし、自分は空っぽだった。探しても探しても、何もなかった。
そんな時、ヒカルが見つけてくれたのだ。自分を。
だからアキは、ヒカルがいなくなったのなら、迷っているのなら、必ず見つけ出す、と心に決めている。
彼らにとって、それが、今だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます