Morning/2-3


 そもそも、五人がここに集まるようになったのは、ヒカルのお節介が原因だった。

 彼らは、五人が五人とも、何らかの問題を抱えていた。それは、お節介を焼くヒカルもまた、そうだ。

 シズカは、登校拒否をしていた。

 原因は、窃盗を疑われたことにある。シズカは元来体が弱く、それ故に小説が好きだった。脳内ですべてが繰り広げられる感覚。それは数学にも通じ、数式で答えが導かれていく様は、脳内で物語のように展開されていた。だからその日も、体育をサボり、屋上で小説を読みながら、それに数式を浮かべ過ごしていただけだった。

 なのに、教室に戻ったシズカに向けられた視線は、敵意に満ちたものだった。信じられなかった。彼らの脳内では、一体どのような物語が展開されているのだろう。小説の中では無理筋は通らない。数式も導かれる答えは決まっている。だからこそ、美しいのに、彼らは彼らに都合のいい物語を作り、あるはずのない数式に導かれた答えでも、自分の意に沿っていれば正解などどうでもいいようだった。

 その後、犯人は見つかり(学校に忍び込んだ浮浪者だった)、シズカの容疑は晴れたが、まるで何事もなかったかのように接してくるクラスメイトに、逆に不審は募るばかりだった。あんなに疑ってかかったのに、どうして彼らは笑って話してこられるのだろう。自分の出した答えに、責任を持たないのだろうか。

 怖くなり、彼は自分の世界に引き籠もった。別に、わざわざ学校に行かなくても小説と数学は手元にあり、どこまでもシズカを連れて行ってくれた。

 だけど、そんなシズカを引っ張り出してきたのが、ヒカルだった。

 どんな世界も、他人と交わらないと、新しい物語や数式は出てこない。そう、気づかせてくれた。

 それ以降、ちゃんと来ているかの確認のために、朝ここで話すようになったのが、始まりだった。

 だからシズカは、もしヒカルが何かの答えが出せないのなら、それを出す手助けをしてやりたい、と思っている。

 トオルは、性同一性障害だった。

 小さい頃から女の子に混じって居る方が、気が楽だった。男友達の中に居ると、何か違和感と、一種の緊張感が同居していた。

 それを強烈に意識し始めたのは、高校に入ってからだった。

 第二次性長期がやはり影響しているのだろう。何かを意識して男子と話すようになってしまい、輪に入れなくなってしまった。小ささと持って生まれた童顔のお蔭で、女子たちとは違和感なく話せたが、それも限界がある。

 少しずつ、心が壊れ始めていた。

 そんな時、ヒカルが声を掛けたのだ。

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