Night/1-4

「勿論、俺たちも追うよ。奴らよりも先に見つけてやりたい、と思ってる」

「どうして?」

 シュウが、問う。

「ここは、俺たちの場所だ。〝ヒカル〟が捕まっても、どうせすぐに次が出てくる。だったら、根元から叩かないと」

「え? 根元だったら、その〝元締め〟を狙えばいいんじゃないの?」

 マキが不思議そうに目を丸くしたが、アラタは首を横に振った。

「いいや。俺たちに何ができる? それより、その〝元締め〟も〝ヒカル〟を追っている、ってことは、何らかの証拠を〝ヒカル〟が持ち逃げしている、ってことだ」

「だから、先にその証拠を手に入れよう、ってことか」

 シュウが頷き、納得する。

「……その先、は……?」

 だが、シンジロウが訊いた。アラタはそこで少し言い淀み、腕を組んで眉根を寄せた。

「そうなんだよな。結局、俺たちの力では、そこからは警察に頼るしかないのかもしれない……」

「え! だったらここ、潰されちゃうかもじゃん!」

 マキが声を上げた。アラタもそれには、苦渋の表情を作る。

「ああ。だから、もしかしたら、そこから、俺たちだけで交渉しなくちゃいけないかもしれないな」

「交渉……」

 マキが呟く。皆、誰も言わないが、〝クスリ〟を扱う〝元締め〟、といったらひとつしか思い浮かばないだろう。

「……自分の場所は、自分で守る……」

 シンジロウが呟く。アラタはぐっと顔を引き締め、頷いた。

「そうなんだ。大人は、信用できない。だったら、俺たちだけで、俺たちの場所は守らなきゃいけない。そうだろ?」

 同意を求め、他のふたりも揃って頷いた。

「じゃあこの話は、ここでお終い」

 そう言われて、決意を固めて頷いたさきほどのふたりがこける。

「え!? 何で?」

「何で、って言われても、今日はもうすることがないだろ。クラブも今日はやってないし、聞き込みするにも街には人がいない」

 肩を竦めたアラタに、ふたりは二の句が継げなかった。しかし、当然のように文庫を開くシンジロウや、どこからかキャンパスを取り出して絵を描き始めたアラタを見て、諦めたようにふたりで顔を合わせて苦笑し、それぞれ好きなことをやり始めた。

 マキは携帯ゲームを取り出し、シュウはノートを広げて鉛筆でなにやら書いていく。

 やがて、夜も更ける頃、シュウが徐ろにノートを仕舞うと、立ち上がり、「おやすみ」と言って去っていった。続けて、マキがなにやら声を上げたのを機にゲーム機の電源を切り、立ち上がって埃を払うと「じゃ、おやすみ」とノートパソコンを小脇に消えた。ふたりが残り、暫し静かな時間が流れたが、シンジロウが本を閉じ、立ち上がると、アラタと視線を合わせ、頷き、去っていった。ひとり、またひとり、と静かにその場を去っていく。

 特に何かするでもなく、彼らはただそこに居るだけだった。

 最後のひとりになったアラタが、キャンパス越しに月を眺め、目を細めて言った。

「……おやすみ」

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