Night/1-2


 赤い帽子の影は、そこに辿りつくと、荒い息を吐きながら膝に手を置き、言った。

「はあ、はあ……。おっ……す」

「おう」

「……遅かった、な……」

「待ってたよ」

 暗い闇夜とは思えないほど月明かりに照らされて明るいフロアの中央で、瓦礫に座って待っていた三人が銘々に声を掛けた。

 ひとりは、タンクトップから覗く腕の太さが異様な、筋骨隆々、背も高い、無骨な青年だった。頭にはバンダナを巻き、履いているズボンは作業着、と大工を想像させる姿だ。だが手には、文庫本を一冊、携えている。

 もうひとりも背が高く、威圧感があったが、こちらはもうひとりと比べると細身で、顔つきも柔和だった。髪は長めでパーマも軽くかかっており、イケメンの部類に入るだろう。だがどこか、危うさも感じさせられた。それは、こんな闇夜に似つかわしくない爽やかさと明るい表情が原因かもしれない。

 最後のひとりは、無造作に髪を伸ばしており、ひと目でわかるほど小さい、少年だった。切るのが億劫、というタイプの伸び方で、目元まで前髪が下ろされている。寝転がって、ノートパソコンを前にしていた。ここが廃墟でなかったら、ただの引き籠りと認定されるだろう。服装も、適当に大きめで緩いバスケットのシャツとスウェットだ。

 赤いキャップの影もそのまま地べたに座り、四人は距離をとってはいるが、輪の形になった。

「どうしたの?」

 少年が、パソコンの画面を見つめたまま赤帽に声を掛ける。赤帽ははにかみながら、「なかなか抜けらんなくてさ」と言い訳をした。少年が頷く。

「塾だっけ? シュウのとこは厳しそうだもんね。いつも大変だ」

「別にいいんだけどね。ただ、親にばれてここに迷惑かけるのも、やだからさ」

 シュウ、と呼ばれた赤帽は、溜息を吐いて肩を竦めた。それに、長身ゆるふわパーマイケメンが応じる。

「そうだな。先月この街で殺人が起きてから、ただでさえ夜に対して締め付けが強まってここも危ないのに、これ以上何かあったら、完全に封鎖されてしまう」

 この街で、先月身元不明の死体が発見された。まだ身元は判明していないが、そう大きな事件もない田舎の繁華街ではこれだけしかやることもないのだろう、力を入れて捜査をしている。警察は締め付けを強化するいい口実ができた、くらいに思っているのかもしれない。その結果、締め付けから逃れ、流され、三週間ほど前からここに四人は集まるようになっていた。

「そう、それ、何か新しいことわかった?」

 少年がイケメンを見上げて言った。イケメンは頷き、口を開く。

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