Night/1
Night/1-1
ビルの上に、満ちる手前の膨らんだ月がぼんやりと浮かんでいる。
地方都市の繁華街の夜は早い。ファッションビルは電気を消し、屋上の広告すらもその光を落とす。繁華街といえども、八時を過ぎると多くの商店がシャッターを降ろし、人が閑散とし始める。
その中で、やっと自由な空間を与えられたと逆に活発に動き始めるものもいる。
昼間の、明るい日差しの中では動くことのできない、いや、敢えて人の目を避けるように生きざるを得ないものたち。
光を避け、闇を縫うように走り、影へと入り込んでいく。
広いが暗いスペースで、集い、蠢き、溜まった熱をぶつけ合う。
その片隅で、狭い路地を小さい影が疾っていく。
時折積み上がった黒いゴミ袋に躓きながら、荒い息で駆け抜ける。熱帯夜を疾走する肌には、玉のような汗が浮かんでは、流れた。
一瞬立ち止まり、壁に背を当てて空を見上げた。狭いビルの隙間から、空に浮かぶ月が見える。息を整えながら、唾を飲み込んだ。やがて月には雲がかかり、路地にも影が訪れる。
するとまた、壁から背を離して走り始めた。
赤いキャップを被り、その境目には汗が浮かんでいる。パーカーの中に着た黒いTシャツは肌に張り付き、だぼついたジーンズも暑そうだ。
やっと、路地を抜け、開けた場所に出る。
目の前には荒れたスペースが広がっており、元は駐車場だった面影を感じさせる。今はゴミと瓦礫がうず高く積もっているその先には、廃ビルが建っていた。その上に、月が輝いている。
そこに向かって、また走り出した。
ゴミを乗り越え、崩しながら、エントランスへと向かう。今はガラス窓も壊れ、吹き抜けた空間に、三つの影が立っている。
月明かりに照らされ、そこだけ、この熱帯夜で涼しさを感じさせた。
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