第42話 ポワカへのインタビュー

「おやおや、見つかってしまったねエ。

 いかにもワシこそがポワカ。

 悲劇のヒロイン。

 運命に翻弄されし女。

 ヌシらが言うところのインディアンの巫女さ。

 ワシが誰かなんて、ワシよりヌシのほうが詳しいぐらいなんじゃないのかエ?


 ワシに何を語らせたいんだい?

 うまく思い出せるかねエ。

 何せもうずいぶんと昔の話だからねエ。

 ……まだ百年は経っておらんよな?



 何も大いなる種族でなくとも、インディアンの巫女と聞きゃあ、ほれ、ヌシじゃって興味が湧くじゃろう。

 じゃからって魂を入れ替えて自らワシになって集落の歴史を内側から調べてみようなんて考えて、しかも考えるだけでなく実行するヤツなんてのは、そうそういないと思うがね。


 大いなるバケモノ種族の学者めは、当時まだまだ可憐な小娘じゃったワシに目をつけて、魂を入れ替えようとしおった。

 しかしヤツらの力は、巫女の一族の血に受け継がれし守護の力には通じん。

 ワシはヤツらの魂を打ち払ってやったのじゃ。

 しかしのう、これがまた余計にヤツらの好奇心を刺激してしまったみたいでのう。

 ワシはこの一回だけで終わった気でおったんじゃが、ヤツらはときが流れてワシと直接間見える機会が訪れるのを根気強く待っていおったんじゃ。


 やがてヤツらは再びワシの前に現れた。

 ワシにとっては数十年ぶりじゃが、ヤツらにとっては数億年ぶりの再会だったそうじゃ。

 その数十年、数億年の間に、ヤツらの故郷のアトランティスは宿敵クトゥルフを封じるために海に沈み、ヤツらの仲間のごく一部だけが時空の狭間のフェブラリー・タウンに取り残されたと聞いておる。


 大いなる種族のヤツらめは、故郷も何もかも失ったにもかかわらず研究癖だけは何故だが消えんくてのう。

 時空を越えられたのをこれ幸いとワシに直接逢いに来おって、ワシは虫でも捕獲するようにたやすく連れさらわれてしもうた。

 ワシゃ魂の戦いなら今でも誰にも負ける気はせんが、体はか弱い“れでぃ”じゃったからねエ。

 黙って従うしかなかったよ。

 ああ、なんて可哀想なワ・シ!

 とは言えただで転ぶつもりはなかったぞい。

 あのころワシの集落は、海の向こうから来た部族に苦しめられておってな。

 この部族のほうはバケモノでも何でもないそこら辺の人間なんじゃが。

 ワシゃどうにかして大いなる種族どもの力をかすめ取って、よその部族から故郷を救おうと考えとったんじゃ。


 ワシは従順なフリをしてヤツらの信頼を掴み、ヤツらの秘密の書庫への出入りを許され、ついにはルルイエ一行との交渉役を任されるまでになった。

 ルルイエ一行の到来は、騒ぎに乗じてフェブラリー・タウンから脱出してやる千載一遇のチャンスじゃった。


 結果は予想以上じゃったよ。

 ワシが望んだんでも仕組んだんでもないぞい。

 そりゃあワシじゃって大いなる種族どもへの恨みはあるが、優先順位っちゅうもんがあるでな。

 逃げるついでに、ちぃとばかり懲らしめてやれればしめたものぐらいに思っとった。

 まさか全滅するとは。

 まあ、ザマアミロじゃがのう。




 そうだねエ。フェブラリー・タウンの崩壊から肉体を持ったまま逃げ延びるのは、ワシとてさすがに無理だったねエ。

 別に元の肉体への未練なんかはなかったさ。

 何せずいぶん年老いちまって、走るのも遅くなっていたからね。

 だけどご先祖さまのもとへはまだ逝くわけにいかなくってね。

 ワシには故郷の集落を守るという使命が……あると思い込んでいたからネ。


 魚人の巫女の一人、名前についてはあとで知ったがノベンバってのがフェブラリー・タウンをすぐ近くで見張っていてね。

 大いなる種族の書庫で学んだ術を使って、魂だけを入れ替えさせてもらったんだ。

 ノベンバの魂なら、ワシの肉体と一緒に死んだよ。


 いやいや、やり方がわかったからって誰にでもできるってモンじゃあないさ。

 ワシはただ、生まれつき特殊な体質だったんだよ。

 ――巫女の家系に生まれたから、ね。



 しかしの……時間の流れの狂いというのは、ワシが思っとったよりはるかに恐ろしいものでの……

 ワシの故郷の集落は、とっくの昔に跡形もなく消え去っておった。


 ルイーザがなんじゃ。パトリシアがなんじゃ。

 ワシこそが悲劇のヒロインじゃ。

 こんな辛い目にあったんじゃから、ちょっとぐらい悪さしたってどうってことないじゃろ。


 シャーマーメイズの目的は、クトゥルフが復活していわゆる人類が奴隷となった世界で、奴隷頭として権力を振るうこと。

 シャーマーメイズはそのためにさまざまな悪しき活動をくり広げてきた。

 ならばワシはシャーマーメイズを始末して手柄を横取りし、ついでに大昔にクトゥルフを封印した連中と縁の深いサン・ジェルマンをクトゥルフへの生け贄にして機嫌をとって、奴隷頭を統べる頭になってやろうじゃないかい!

 と、そんな風に考えたわけサ。


 結果は、記者さん、アンタもご存知のとおりだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る