第22話 ホテル従業員へのインタビュー

※カリフォルニア州にかつて存在したホテル・イーグルスの元オーナーへのインタビュー。

 なお、キャロライン・ルルイエ一行が滞在していたのはマサチューセッツ州のイーグルス・ホテルである。




「そりゃあ自分の親が経営していたホテルだからな。ガキの時分から手伝い程度はしていたさ。

 場所が場所だし客の大半はハリウッドへ向かう奴らだったね。

 家族連れの観光客も居りゃあ役者になるっつって故郷を飛び出したような若い奴らも大勢居た。

 そいつらに刺激されて俺自身も役者を目指してた時期なんてのもあったもんだったね。

 ハリウッド以外、例えばアリゾナやユタやモンタナへ向かう連中は皆、そろって暗い顔をしていやがった。

 今思やー夢破れて故郷へ帰るところだったんだろうが、ガキだった俺は可愛いことに、楽しいことはハリウッドにしかねーんだなんて思い込んでたんだぜ、ハハハッ」


「ああ。記者さんが聴きてーのはこんな話じゃーねーな。

 奇妙なこと……怪異ってのか? そんだったら俺が家の手伝いを始めたころにはすでに起きてたぜ。

 起きてたっつーか、感じてたんだな」


「客室でも廊下でも、掃除を終えた直後だとかに何かこう、歪むような感じがするんだ。

 それで辺りが、掃除する前に戻ったような、でも少し違うような――

 とにかく、散らかって汚れた状態と“入れ替えられた”ような感覚になるんだ。

 でも良く見ると掃除はちゃんと終わっているし、良く見ている間に違和感も消えてるんだよ。

 配膳でも、キッチンの洗い物でも、似たようなことが続いていた。

 毎日だったね。

 大体は一部屋だけとか一人分の料理だけとかだったが、数人分で起こることもたまぁにあったな。

 子供のころから続いていたからそういうモンだと思ってたんだが、役者を目指して家を出てた時期に――結局は金に困ってほかのホテルで働いてたんだが――どこへ行っても誰に訊いても、うちみたいなことは起きてなかったね」


「あん? 何だって?

 コピーを取られたんじゃないかって?

 こことは別の時空にもう一つ、ホテル・イーグルスにそっくりのホテルがあって、そのホテルにはオーナーのほかに従業員が一人も居ないからホテル・イーグルスの状態を写し取って使ってた?

 ……いや、その発想はなかったな。

 ……うん。わからねー。

 今さら確かめようもねエ。

 幽霊が住んでんのかぐらいにしか考えてなかったからな」




「一九三〇年か。忘れられるわきゃーねエ。

 その年、ホテル・イーグルスは放火に遭って全焼しちまったんだ。

 犯人は捕まっていねエ。

 ホテルは保険で再建したが、あれ以来、怪異はパタリとなくなったね。

 ん? つぶれたのは火事の二十年もあとだが?

 俺が経営に向いてなかっただけだよ」


「キャロライン・ルルイエにルイーザ・ルルイエにアデリン・アンダーソンね。

 キャロラインだったかどうかは覚えていねエが、ルルイエってのには聞き覚えがある。

 火事があった日、おふくろが騒いでたんだ。

 ルルイエって名前の客が泊まってるはずなのにどこにも居ないって。

 ところが消防がいくら探しても遺体どころか荷物のカケラも出てきやしねエ。

 そうこうするうち宿帳が燃え残ってるのが見つかったんだが、そいつらの名前はなかった。

 似た名前すらねエ。

 だってルルイエだぜ? ジョンソンとジョーンズを間違えるのとは違うんだ。

 宿帳の日付けは合ってるし、ほかの宿泊客の名前も全部、合っていた。

 そんで結局、おふくろが火事のせいで混乱して夢でも見たんだろうってことになった。

 まあ、死人が出なくて何よりだったぜ。

 おふくろは最後まで納得してなかったがな。

 それに俺もサ、見た気がすンだよ。

 女ばっかりの三人連れ。

 その内の一人は俺と似たような年だったと思うんだがな――」


「何だよ記者さん、ビンゴって?」


「何? こことは別の時空に?」


「ホテル・イーグルスをコピーして作ったイーグルスホテルってのがあって?」


「そこにはオーナー一人が居るだけで従業員が居ない?」


「そこに思いがけず三人も来訪者があったから?」


「一時的に空間を繋げて俺のおふくろに接客させたア?

 アンタ、俺のことからかってんのか!?

 いくら何でもそんな突飛な話、信じられるわきゃねエだろうが!!」

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