第7話 アーカムからのエアメール 3 − 五枚目の便せん

 牧師さまはルイーザのおかげでヘンリーさんとヘンリエッタさんのお墓に名前が書けるって喜んでらしたわ。

 わたしも一応はお祈りをしておいたわよ。

 ヘンリーさんとヘンリエッタさん。

 こんな呼びかた、他人行儀かしら?

 だってこの二人はわたしの本当の祖父と祖母ってことになるのよね?

 でもまだルイーザの言葉を信じる気になれなくて。

 パトリシアおばあちゃまにはあまりかわいがってもらった記憶はないけれど、それでもやっぱりショックだわ。


 牧師さまは、子供に聞かせるような話じゃないっておっしゃってた。

 わたしが実家を出て学校の寮に入ったのは九歳のとき。

 ルイーザだって同じ九歳なのに。

 パトリシアおばあちゃまはどうしてパパのことを、ルイーザには話して、わたしには話さなかったの?


 わたしが聞かされてきた話では、パパはおじいちゃまとおばあちゃまの新婚旅行の最中にアメリカで生まれた。

 パパは大人になってから何度もアーカムに来て、自分が生まれた産院を捜したけれど突き止められなかった。

 それは、生まれた場所がそもそもアーカムではなかったから。


 パパはパトリシアおばあちゃまの子供ではない。

 わたしはパトリシアおばあちゃまの孫ではない。

 それじゃあルイーザは?


 髪の色が、白髪になる前のパトリシアおばあちゃまにそっくりだっていうのは、ただの偶然?

 だから実の孫じゃなくてもかわいがっていたのかも。

 ルイーザが、パトリシアおばあちゃまが生んだ子供だなんて噂、本当なわけないわよね?




 話を戻すわね。

 ルイーザが言うにはね、白骨化したこの首を、この状態で首なし騎士に返しても意味がないんですって。

 で、このまま持っていくっていうのよ。

 人間の頭蓋骨を。

 ルイーザってば「子供が持っていれば誰にも本物だとは思われない」なんて言って。

 本当に大丈夫かしら?


 それでその後は頭蓋骨の入った箱を肌身離さず。

 今も食堂車まで大事に抱えて持っていっているわ。

 最初に書いたとおり、この手紙は汽車の中でしたためているわけで。

 ほかの乗客にバレたら大変よ。

 イギリスに戻る前に首なし騎士に首を返せるといいんだけど。


 説明が前後しちゃうけど、わたしたち、ニューヨークに向かっているわけじゃないのよ。


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