第6話 アーカムからのエアメール 3 − 四枚目の便せん

 ねえ、信じられる?

 ルイーザが言ったのはつまり、パパはパトリシアおばあちゃまの子供じゃないってことなのよ?

 何よそれ?

 どうしてそんなことをこんなところで、妹の口から聞かされなくっちゃならないのよ?


 もちろんウソだと思ったわよ。

 その場でルイーザを叱ろうとしたわよ。

 ウソなんか吐いて、何を聞き出したいのか知らないけど、牧師さまを騙そうなんてしちゃいけないわ。

 それなのにルイーザってば、わたしが口を開くより早く、牧師さまに見えないようにわたしのお尻をつねって黙らせたのよ!?

 まるで行儀の悪い子供をしつけるみたいに!

 わたし、姉よ!?

 逆でしょ、こんなの!?

 しかもその隙に、なんと牧師さまがわたしに詰め寄ってきたわけよ。

「こんな子供にそんなことまで話しているのか」って。

 わたしは初耳なんだってば!


 ルイーザは「おばあちゃまから聞いた」って。

「パパには言ってない」って。


 牧師さまはあきらめたように首を振って、「そこまでわかっているなら」って、重い口を開いたわ。

 ルイーザはわかっていても、わたしはわかっていないんだけど。



ルイーザ「パトリシアと別れてから、サン・ジェルマンに何があったのか教えてほしい」

牧師さま「私はそのかたとお会いしたことは一度もありません」



 ねえオリヴィア、がっかりした?

 長い手紙をここまで読んできたのに、って思った?

 わたしはこのとき、肩透かしを食らったみたいになったわ。

 でもね、ここからよ。



ルイーザ「首なし騎士の首の在り処に心当たりは?」

牧師さま「それらしきものをこちらの教会で預かっています」



 牧師さまは墓地の隅の、教会そのものよりも古そうな納骨堂から、木の箱を持っていらしたわ。

 頭蓋骨がすっぽり収まる大きさの箱。

 頭蓋骨は、布に包まれて収められてた。

 ルイーザが、その場で中を確認したの。


 わたしはルイーザの肩越しにちょっと覗いただけ。

 真っ白だったわ。頭蓋骨。

 目の穴が、目なんてとっくになくなってるのに、こちらを見つめているみたいだった。


 ルイーザは頭蓋骨を手に取って、なで回して、抱きしめて、泣き出した。

 わたしも牧師さまも唖然としてそれを見ていた。


 牧師さまがおっしゃるには、この頭蓋骨は、鉄道事故から数年後にアーカムの若い学生たちが森で見つけたのだそうよ。

 首なし騎士の噂を聞いて、まさか本当にそんなものが居るわけがないと、度胸だめしに行った人たちの中の一組の戦利品。


 線路から離れた場所にあったから、鉄道事故とは関係がないと思われたみたい。

 警察が調べても身元はわからず、教会で引き取って――


 一度は埋葬したのだけど、野良犬が掘り返してしまったの。

 すでに白骨化していて――嫌な言い方になってしまうけど――食べられる部分なんてないはずなのに。

 何度、埋め直しても、その度に野良犬が掘り返すので、埋めるのはあきらめて、すでに使わなくなっていた納骨堂に収めておいたんですって。


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