第8話 アーカムからのエアメール 3 − 六枚目の便せん

 汽車に乗る前にちょっと気になることがあってね。

 昨日、アデリン叔母さまが汽車のチケットの時刻を間違えて、出発が一日延びたじゃない?

 今日、駅に着いて、いざ乗車っていう段になって、急にルイーザが「チケットから魚のニオイがする」って言い出したのよ。

 アデリン叔母さまはチケットを間違えて買ったのではなくて、インスマウスの人にすり替えられたんじゃないか、とか。

 わたしたちを足止めして、その間に何か企んでいたんじゃないか、とか。

 しまいには、わたしたちが乗ろうとしていた汽車の窓を指差して「魚顔の人が居た! 罠だ! 汽車の中で待ち伏せしてる!」って。

 それでわたしたち、怖くなって、ニューヨークへ向かうその汽車とは逆へ行く汽車に飛び乗ったの。


 あとで考えると、本当にそうだったのかしら? って疑問になるのよ。

 わたしもアデリン叔母さまも一刻も早くイギリスへ帰りたかったのに、ルイーザだけはまだアメリカに居たかったのよね。

 しかもこの汽車が向かう先には、先住民が禁断の地って呼んでる場所があるらしいの。

 ちょっとルイーザに都合良く進みすぎてない?


 駅の魚顔の人はわたしは見ていないし、チケットからは確かにほのかに魚のニオイがしたけれど、ホテルの食事に魚が出たから、ルイーザがニオイをつけることは可能――

 考えすぎかしら?

 でも旅に出てからのルイーザの様子を見ていると、これくらいやりかねないって思えるの。


 でもいいわ。これはルイーザのための旅だもの。

 パトリシアおばあちゃまが悲惨な死にかたをしたあの日から、謎の先に危険が待っていることぐらいはわかっていたもの。

 アデリン叔母さまには悪いけど、わたしはどこまでも着いていってルイーザを守るわ。


キャロラインより



PS.ヘンリーさんとヘンリエッタさんのことをパパになんて話すか、わたしがイギリスに帰ったら、オリヴィアも一緒に考えてちょうだいね。

 ルイーザみたいなやりかたはさすがに無理だわ。

 あの子も悪気があったわけじゃないというか、そんなこと考えてもいなかったんだろうけど。

 パパはわたしが受けたのよりもはるかに大きなショックを受けるはずよ。

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