第11話 アデリンの日記(一九三〇年、九月)
九月X日
ジューリャとパトリシアが死んだ。
アタシはジューリャに言われたままにしてただけ。
アタシは悪くない。
アタシのせいじゃない。
アタシは――――
九月X日
パトリシアの葬式が終わって家に戻る。
ルルイエ邸ではまだ騒ぎが続いてる。
うちの前にも記者。
キャロラインはブルーダイヤをルイーザが継ぐことに納得してる。
だったらアタシが口を出す余地はない。
キャサリン姉さんの葬式の時を思い出す。
ルイーザがパトリシアの娘だというウワサは本当だったのかもしれない。
もちろん分裂して増えたなんてふざけた話は信じていない。
ルイーザの父親は誰?
パトリシアの夫は何十年も前から行方不明。
パトリシアは屋敷の外に出ることも、お客を招くことも滅多になかった。
考えられるのは使用人。
だからヘンリーは、ルイーザが生まれてすぐに、使用人を一度にまとめてクビにした。
パトリシアの不倫相手を特定できなかったから、男性の使用人を全員。
それだけだとあからさますぎるから、女性の使用人もほぼ全員。
身に覚えのない大半の使用人は、待遇を不服に思い、ささやかな仕返しとしてオカルトめいたウワサを流した。
これなら、世間体を気にしたヘンリーがルイーザを自分とキャサリンの子供だとしたのも、パトリシアがキャロラインを無視してルイーザにブルーダイヤを相続させたのも納得できる。
九月十X日
こんなことをわざわざ紙に書いて残すなんてどうかしてると自分でも思うけど、懺悔を込めて。
水晶玉がアタシに授けてきたのは、ブルーダイヤを盗み出す計画。
アタシは最初は反対した。
パトリシアはブルーダイヤをものすごく大事にしている。
だけどジューリャは、パトリシアはどうせボケてるんだから指輪がなくなったってわからないって。
指輪から開放されれば、自分と息子を捨てて居なくなった夫のことなんかスパッと忘れて再婚を考えられるようになるって。
指輪の呪縛から引き離して、残り少ない人生を楽しめるようにしてあげたほうがパトリシアのためだって。
アタシは、自分がこんなに流されやすいタイプだとは思っていなかった。
ううん、これはもともとあった流れ。
無理にせき止めていただけ。
アタシがジューリャをルルイエ邸に連れて行って、パトリシアと二人きりにさせて、ジューリャがブルーダイヤを盗んでいる間、アタシは他の人と別の部屋でアリバイを作る。
ブルーダイヤがなくなれば、犯人はジューリャだってすぐにバレて持ち物を調べられるから、その前にアタシがこっそりブルーダイヤを受け取って隠す。
単純な計画。
そのはずだった。
九月二十五日。
夢にジューリャのような人が現れた。
ジューリャに似てるけどジューリャじゃない誰か。
「サン・ジェルマンを探せ」って言われた。
行方不明で生死すら不明の、パトリシアの夫。
どうやって?
何のやめに?
変な夢。
九月二十六日
昨日とほとんど同じ夢を見た。
ジューリャに似た人に「ブルーダイヤを手に入れろ」って言われた。
そんなの今さら――
だって鑑定で、本物のダイヤじゃないって出たんでしょ――
九月二十七日
同じ夢ばかり見るのは、アタシの中の罪悪感のせい?
どうしてジューリャ本人ではなく、似ているだけの、会ったことのない誰かが出るの?
「ジューリャが死んだのはオマエのせいだ」
「罪を償え」
九月二十八日
「ルイーザ・ルルイエを監視しろ」
アメリカについていけってこと?
何で?
九月二十九日
「本物のブルーダイヤがオマエのものになる」
九月三十日
(白紙。日付のみが記されている)
※日記はこのページで終わっており、アデリンは旅立ちに際し、港の近くで新しい日記帳を購入している。
アンダーソン邸の屋根裏部屋の奥に厳重に隠されていたことから、単に置き忘れたのではなく、旅行に持っていって何かの弾みでキャロラインやルイーザの目に触れることを警戒したためと思われる。
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