第9話 ルルイエ邸からの手紙 5

親愛なるオリヴィアへ


 やっと家の前の記者が居なくなってくれたわ。

 だからってその理由が単に飽きたってだけでなく、切り裂きジャックの復活だか模倣犯だかが久しぶりに現れたからだっていうんじゃ、素直には喜べないけれどね。

 ともあれ、おばあちゃまのお葬式も終わって、今は静かよ。


 ああ、でも、ちょっと騒ぎがあったのよ。

 記者には内緒よ?

 ブルーダイヤを再鑑定に出したのよ。


 弁護士がね、ブルーダイヤを最後に鑑定したのは、おばあちゃまがおじいちゃまと結婚する直前で、四十年近く前なわけだから、改めて鑑定したら傷や汚れで値段が下がって相続税が安くなるかもしれないって言ったの。

 それを聴いてパパは逆に、相続税の支払いを拒否することで、ブルーダイヤを国に持っていってもらおうって考えたの。


 ところがいざ鑑定をしてみると、ブルーダイヤはダイヤモンドじゃなかったの!

 ちょっと変な書き方になっちゃったわね。

 とにかく、四十年前の鑑定ではダイヤモンドだったのに、今度の鑑定では全く違う鉱物だって言われちゃったのよ!


 サファイアでもアクアマリンでも、他のどんな宝石でも、もちろんガラス玉でもない。

 鑑定士は、こんなの見たことない、もしかしたら隕石かもしれないって言ってたわ。


 で、値段がつけられなくって、相続税はゼロ。

 パパの目論見はハズレ。

 おばあちゃまの遺言どおり、指輪はめでたくルイーザの左手の薬指に。

 子供の指じゃあリングの部分がぶかぶかになると思うんだけど、ルイーザは気にしていないみたい。


 四十年前の鑑定士が間違えたのかもしれないし、この四十年の間に誰かがすり替えたのかもしれない。

 すり替えられそうなタイミングは何度もあったし。

 弁護士はアデリン叔母さまを疑ってたけど、わたしはそれはないと思うわ。

 アデリン叔母さまって、ウソはつくけど、すぐバレるんだもの。


 結局、おじいちゃまが詐欺師で、ダイヤは最初から偽物で、四十年前の鑑定士はおじいちゃまとグルだったって話になったの。

 やれやれよ。

 おばあちゃまが亡くなるまで誰も調べようとしなかったのがせめてもの幸いだわ。

 おばあちゃまは痴ほうになっていろいろ忘れてしまっても、それでも最期までおじいちゃまにもらった指輪を手放さなかったわけなんだもの。


 じゃあね。

 休み明けにはそっちに戻るわ。


キャロラインより

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る