第5話 宝石鑑定士の惨劇

 宝石鑑定士Aを呪いのブルーダイヤの最初の犠牲者とする説には異論がある。

 A氏の被害は、同業者のBによって毒物を摂取させられたためであり、呪いのような常識を外れた力によるものではないとの説があるのだ。

 しかし本当に毒物が使用されたか否か決定的な証拠はなく、また仮に現実的な毒物が用いられていたとしても、Bがそのような犯行に走ったのは呪いに操られたせいではないかとの説もある。





 順を追って記す。


 サン・ジェルマン・ルルイエ伯爵が当時六歳のパトリシア・ピークスにブルーダイヤの指輪を贈り、伯爵自身はその日のうちに姿を消す。


 ほどなくしてトーマス・ピークス氏は友人の勧めで、娘の指輪の鑑定をA氏に依頼。

 A氏は突然の食中毒に倒れ、Bが代理としてピークス氏のもとを訪れる。

(のちにA氏は、Bとは面識があるという程度で仕事の代理を頼むような間柄ではなく、また当日は医者を呼ぶので精一杯で、誰がBと連絡を取ったのかわからないと語った)




 Bはパトリシアの指輪をガラス玉と鑑定。

 その翌日、Bは自宅に押し入った強盗によって殺害された。

 よってBこそが呪いの最初の犠牲者だとする説もあり、A氏を一人目とする説と意見を二分している。



 強盗殺人事件の捜査の過程で、Bが鑑定のために預かった宝石を贋物とすり替えて騙し取るという手口を繰り返し行なっていたことが判明。

 Bの自宅から発見された複数の宝飾品の中に、パトリシアの指輪も含まれていた。



 Bは客から騙し取った宝石を、とある犯罪組織を通じて売りさばいていた。

 その組織から特別に、ブルーダイヤを探せとの指示を受けており、見つけ次第、すり替えられるよう、予め贋物を用意していた。



 押収された宝石類は、証拠として警察が保管。

 警察によって改めて鑑定された結果、パトリシアの指輪はダイヤモンドではなく、その他、宝石とされるいかなる石とも異なるとされる。


 ピークス氏は、指輪がただのおもちゃだと判断し、安心してパトリシアに返還。

 なお、それまでの間、警察署内ではラップ音などの心霊現象が絶えなかったとされているが、真偽は不明である。

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