第7話 王命
エルロンドはツヴァイスに扉の守りを解くように命令、また近衛以下騎士団には直ちに武器を捨てて投降するように呼び掛けた。
あっという間の出来事であった。
東の砦の陥落を受けて、僅か数刻。
敵の侵攻は早かった。
それも、見たことのない兵器により陥落した影響が大きい。
空飛ぶ戦艦から始まり、報告では大砲や砲弾を受けても貫通しない鉄壁の鎧があり、造りの解明が不明のため魔術すら通らない。
魔術というのは、造りが分かって、初めて効力を発揮するものであった。
ディアロス国が誇る魔術を崩せたとあっては、投降するしか道がなかった。
「敵の総大将に会おう。伝令を飛ばしてくれ。」
これ以上の戦いは無意味だ。
犠牲者の数だけ増えてしまう。
ディティールは拳を握った。
これが、今のアドラステアの国力であり、ステラシア国が陥落したのにも納得した。
ステラシア国は騎馬戦法を活かした機動力を得意としている。
しかし、砲弾を使っても破れることのない固い鎧に勝る対抗手段はなかったのだろう。
アドラステア王国は、一体何を始めようとしているのか。
ディアロス国が陥落するとなると、他は小さな小国が点在するばかりのため、世界はアドラステア一国強ということになる。
今の世、剣を中心とした戦いが常となっているが、砲弾が開発されたことで目覚ましい技術が進歩してきている。
とはいえ、砲弾をも貫通しない技術はステラシア国が世界で初となるのだろう。
「ディティール」
突然聞き慣れた低い声がして、ディティールは我に返った。
「はい、父上。」
「お主はシャルルと共に、ここを出よ。」
「な?!」
これからアドラステアの総大将と会って降伏の意を示すというのに、国の王子が不在となっては、ディアロス国に反感ありと疑われてしまう。
そう言おうとしたが、エルロンドから発する力の『気』に気圧されてしまい、ディティールは固まってしまった。
エルロンドは魔術を使える王なのだ。
その圧倒された『気』に、到底自分は敵わないのだと知らされる。
「主は『国宝の剣』を探せ。」
「『国宝の剣』?」
「聞いたことがあるはずだ。この国のどこかに、古い剣が祀られていると。」
「無論、話は聞き及んでおります。」
「よいか。『国宝の剣』は正当な血筋の王族が使えるという希少な剣。それを見つけ、この王都へ持ち帰るのだ。」
何をするつもりなのか。
『国宝の剣』とは、古の時代、まだ大陸に国さえなかった頃の昔話に、天から授けられたとされる3つの神器の一つである。
勇猛に長けたアドラステア王国には盾を一つ。
武勇を誇ったステラシア国には弓を一つ。
知勇に優れたディアロス国には剣を一つ。
場所は何処にも知られぬように。
3つの神器が揃うとき、世界は一つとなるという。
「アドラステア王国は『神器』を使ったようだ。」
エルロイドは空飛ぶ戦艦や魔術、砲弾を通さない理由の一つは神器の『盾』を使用しているからだと考えているようだった。
「陥落したステラシアにも『弓』の神器があるとすれば、この国のどこかに『剣』の神器もあるはずだ。
それをシャルルとともに探し出すのだ。誰にも見つからずに。」
ディテールは納得できなかった。
というのも、ディアロス国にはこれまで他の二国と同様、歴史にその『神器』が使われたという記述や根拠は一切記されていないのだ。
なぜエルロイドが『神器』を使ったと断言できるのか、理解できなかった。
理解できなかったが、エルロイドは真っ直ぐディテールを見つめて、更に告げたのだ。
「これは『王命』と思え。必ず『剣』の神器は存在する。よいな?」
有無を言わせない強い瞳と圧倒された『気』に圧され、ディテールは頷くしかなかった。
薄紅色の花 花もも @ho_sia023
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