最終話:卒業
3月9日、今日は三年生の卒業式の日である。美波先輩の卒業式はそりゃ盛大に祝福をしてあげたい。
でも、僕はベッドの中から動けずにいた。先輩とはクリスマスの夜以降、一言も会話をしていない、無意識に僕が避けているだけなのかもしれないが、なんだかむず痒いのだ。
だってそうだろ、勇気を出して告白をしたのに僕は華麗に振られたのだから。
「もう何時まで寝てるつもりなの?早く起きてよ」
「ん~……わかった」
どれだけ行きたくなかろうと時間は刻一刻と過ぎていく。
僕は体にかかっている毛布を勢いよく剥ぎ、重い腰を起こして学校に行く準備を始める。ふと時計のほうを見てみると時刻は8時ちょうど、高速で準備をすればぎりぎり遅刻しないであろう頃だった。
「やば……」
準備をしながらいろいろな感情が頭の中で渦巻く中、『やはり先輩と最後に話をしたい』と思い朝ごはんも食べずに家を飛び出して学校へと向かう。
学校について教室に入るといつもは僕が一番乗りで教室に入るので、クラスのみんなが先にいるのは新鮮だった。
当然クラスの隅で静かにしている僕に『おはよう』の声をかけてくれる人などおらず、そそくさと自分の席へと向かう。席についたとほぼ同時にチャイムが鳴り、先生の誘導で僕含め在校生が、卒業式の行われる体育館に移動を始めた。
そして、在校生の入場が完了してから約10分後、ようやく卒業生入場の時間がやってきた。
3年生だけでもかなりの人数がいるのだが、先輩だけはすぐに見つけることができた。いつもの子供みたいな無邪気さは無く、まじめな顔の凛々しい姿。
”ほんとにやめてほしいな”
そんなギャップも僕にとっては好きになるには十分すぎるくらいなんだからさ。やっぱりあきらめきれないよ。
卒業式も滞りなく進み、卒業生は体育館から退場して教室へと上がっていった。在校生はそのあと体育館の片づけがあったので自分の分担を手早く済ませる。そしてみんなにばれない位置まで移動し先輩に、メッセージを送る。
『”帰る前に学校で一番大きい桜の木の下に来てください”』
送ると既読はすぐについた。しかし、返信はない。僕は不安になりながらも指定した桜の木の下で先輩を待つことにした。
この桜は敷地内の端に咲いていて、あまり目立たないので二人でゆっくり話すには絶好の場所なのである。
メッセージを送って何分が経っただろう、スマホで時間を確認するともうメッセージを送ってから1時間も経過していた。
「さすがに、もう来ないか……」
そう思い桜の木の下から立ち去ろうとしたとき、何度も聞いた、通るような澄んだような声が聞こえてきた。
「なに?もしかして帰ろうとしてた?せっかく来てあげたのに~?」
「もう来ないかと思いました。」
「うん、本当は来ないつもりだったんだけどね。君からの誘いだから」
『来ないつもりだった』その言葉の破壊力は凄まじいもので、僕の心をえぐるには十分すぎる言葉だった。泣きたくなるような気持ちをぐっと抑え、会話を続ける。
「改めて、卒業おめでとうございます。あっという間でしたね最後の1年」
「そうね。君と出会った日から本当に早かったな~」
そういう先輩の目には、大粒の涙が浮かんでいた。先輩もなんだかんだ言って卒業するのが悲しいんだろう。
「あの日……」
「はい?」
「あの日告白してくれたのに、断ってごめんね。でも本当にうれしかったの」
「そんな、先輩が謝らないでください。先輩は何も悪くないですよ」
泣きながら謝る先輩に僕はどうしたらいいのかわからず、動揺しまくってしまう。先輩の涙なんて初めて見たから、なおの事だ。
「私ね、あの後家に帰ってちゃんと考えたの。わたしも君が好き」
「え、ほ、ほんとうですか?!」
先輩の思いもよらぬ告白によって僕の思考は完全に停止した。これほどまでにうれしいことがあるだろうか、今までのモヤモヤがすべて吹き飛ぶような、そんな感じがした。
「でもね、やっぱり今は付き合えない。今付き合っても離れ離れになっちゃうからね」
「そういうわけだったんですね。納得しました」
僕はなるほどとしっかりと納得ができた、実に先輩らしい。僕のために悩んで、考えてくれた決断には僕もそれなりの覚悟をもって発言しなければならない。
「だったら、一年まっててください。絶対に先輩と同じ大学に合格してみせます! そうしたら僕のほうからまた告白します。その時今度はOKしてくれますか?」
僕の顔はすごく赤かったと思う。そして先輩の顔も僕の言葉にリンゴみたいに顔を赤くしている。それと同時に瞳には大粒の涙も浮かべている。
「わかった。ぜったいだからね! 来なかったらすごくおこるからね!」
「そうされないように努力します。まっててください絶対に約束守りますから!」
先輩の顔はすごく笑っていた。大粒の涙を浮かべながら。
こうして、僕の長い長い初恋はこの桜のような色で幕を下ろした。
僕は先輩と出会ってからすべてがつまらないとは思わなくなっていた。だれかとはなす喜びや楽しさ、長いようであっという間だったけど、先輩と過ごした1年間がなかったら僕はまだ日常なんてつまらないと考えていただろう。
そんな僕は変わった。まっててくれる先輩のために、これからは僕が先輩を守れるようにもっと頑張ろうと決意をする。
「
まってて。 あさひA @yumikun
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