命を落とした大切な人を救うため、何度も何度も時間を巻き戻してセカイを作り直す、ループSF作品です。
読み始めてすぐに、まるで『万華鏡』のような物語だと感じました。
その構成物は変わらないのに、色と形をくるくる変えて、一つとして同じものにはならないセカイのお話。
文章の隅々にまで散りばめられた非常に豊かな色彩表現が鮮烈なまでに印象的で、次々移り変わる夢を見ているかのようでした。
一方で、この会話が『理科室』という場所でなされているのが面白いのです。
描写の中に実験器具や科学用語が混じるたび、否応無く切り込んでくる現実感。これがいつか終わる夢なのだと暗示されているように感じました。
ヒロイン・千比呂が救いたかった人は、本当はその万華鏡の中からずいぶん前に抜け落ちてしまった存在でした。本来、入り口もなければ出口もなかった。
彼を無理やり引き戻したために均衡が崩れたセカイの中で、何度やり直しても思うようにはならず、焦りだけが募っていく。
彼女の取った方法は、ひたすら孤独で苦しいものです。だけど、それゆえに想いの強さや切実さが際立ちました。
最後の最後に彼が願ったことに、胸が詰まりました。
万華鏡が回転を止めても、例え一瞬でも通じ合った想いは、確かに存在したのだと信じたいです。