2
まずは、両親に対してだ。朝食の席で、会話のテンポが噛み合わなかった気がしたのだ。赤の他人から
クラス一のお調子者は参考書に
「あ、
「変?」
学ランをだらしなく着崩した友人は、切れ長の目を
「別に普通じゃん。それより祐希、昼飯は学食な。今日はあんかけ
「僕の話、聞いてるっ?」
必死の訴えは、無慈悲なチャイムに遮られた。続々と席に着く生徒たちを目で追ううちに、またぞろ元はクラスメイトではないはずの人間を一人見つけた祐希は、頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。間違い探しの絵本の中へ、放り込まれた気分だった。
もはや、頼りになるのは己だけだ。そう打ちひしがれた瞬間に――頭が痛み、視界が白く発光した。
*
「今朝、教室で僕は思い出したんだ。正確には、思い出したわけじゃない。だけどあれは『思い出した』というふうにしか表現できないフラッシュバックだった。……記憶の中で、僕は担任のアイラ先生に恋をしてた」
恋という台詞に尻込みしながら、
――
だが、そんな初恋の記憶が、本物の記憶であるわけがないのだ。
「今ここにいる僕は、アイラ先生に恋をしていない」
初夏の暑さに頭をやられたのかもしれないと、祐希も己の正気を疑ってはみたのだ。しかしどう引っくり返しても、今の祐希の心のどこにも、アイラへの恋心は残滓すら見当たらない。にもかかわらず断片的な記憶だけは、厳然と存在を主張している。祐希の告白を聞いた
「担任がアイラだったのは、〝二番目のセカイ〟のときか」
「二番目のセカイ?」
硬い声で訊き返したが、千比呂は祐希を見つめるだけだ。
「アイラ先生の件だけじゃない。僕の周りは異常だらけだ。でも一人だけ、正常に見える生徒がいた」
「それが、私?」
「僕を
幼馴染の千比呂に対してだけは、祐希は違和感を持たなかった。異質な世界での生き方をあらかじめ知っているような動きからは、どんな矛盾も
「恥を承知で言うけど、SF映画みたいに時間を巻き戻した君は、過去を
「そう訊かれたときは、形式として訊き返すべきだよね。本気で言ってる?」
「本気だよ」
「根拠は?」
「僕の記憶。思い出せないけど、千比呂は他の人にはできない特別な〝何か〟をした気がする。……本気だよ。だから千比呂も、本気で話してほしい」
笑っていた千比呂は、不意に真顔になった。
「君が私を理科室に呼んだのは、『時をかける少女』になぞらえたから? 私が過去を改竄したっていう祐希の推測は面白いし、間違ってないよ。でも、少しだけニュアンスが違う。私は、世界を
「世界を、創りかえる?」
「いいよ。教えてあげる。私の能力を見破った林祐希は、君が初めてだし。それに、たぶんこれがラストチャンスだから」
ラストチャンス? その意味を、祐希が問い質すよりも早く――理科室の眺めが、魔法を掛けられたように一変した。
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