死神が現れた日(その2)

「すげー不気味な奴だな……あの鎌がとくに……」


 なんていうか死神のようだ。


「まっ、まさか奴が死神マスクか」


 魔王が驚きながら、そんなヘンテコな名前を口にした。


「前もそんなこと言ってたな。なんだよ死神マクスって? すっげー弱そうなんだけど」

「名前で判断するな! 奴は俺と同じ混沌から生まれしダークサイド。総てを闇にかえすこともできよう――」

「要約するとシャイニングスターで瞬殺だな」


 俺は、魔王の言いたいことをさえぎって簡潔にまとめた。


「そうみたいですね」

「要約するな! あと、ラキちゃんが強すぎるだけだから! 俺たちがザコいみたいな言いかたするなよ!」

「とにかく頼んだラキ! どうせセメコの母親と俺を襲ったのもこいつだろ。ぱぱっと倒してくれ」


 ラキは俺の他力本願全開なセリフにうなずいたあと、


「おやつは一週間ケーキでお願いします」


 そう口にしてデュランダルを振り上げた。


「輝け! 『シャイニングスター!』」


 うーん。

 なんか信頼度がありすぎて名前もふつうに思えてきた。

 デュランダルが振り下ろされる。

 その剣先から放たれる一撃。

 剣からビームという反則ワザ。

 それが死神を直撃する。


 グオオオオオオン!

 デュランダルの一撃。

 その先には、なにも残らない。

 死神は鎌だけ残して見事に消滅していた。


「あっけない奴だな。お前あんなのにビビってたの?」

「そう言ってやるな。ラキちゃんの前では、なにもかもが弱者になるのさ」

「そうだけど、魔王が言っていいセリフじゃねーな。あと、ずっと気になってたことがあるんだけど……」


 そう言って魔王の身体へと視線を向ける。


「その剣いつまで刺してんだよ! 痛々しいんだけど!」

「いやいやお前、抜いたら血が出てくるだろ。そう考えたら逆にこのままのがイイんじゃね的な」

「……。いいから抜くぞ!」


 俺は魔王の身体に刺さる短剣に手を伸ばした。


「ちょっ、こわい。怖いからタンマ。怖いからあああああ! タンマだってえええ!」

「わかったから。ったく、魔王がピーピーピーピーうるせーな」

「とりあえずセメコさんのお母さんのところに行きましょう。なんかここ嫌な感じがするので」


 ラキの言葉で魔王城の入り口へ視線を向ける。


「そうだな。セメコのお母さんの容態も気になるしな」

「ちょっと待ってくれ。この鎌はコレクションにしようっと」


 魔王は、そう言って死神の鎌を拾い上げた。


「趣味悪いぞお前」

「俺を誰だと思ってるんだ。混沌から生まれし――」

「はいはい。帰るぞ」


 俺たちはセメコたちの元へ向かった。






「医務室ってここか?」

「ああ……だが」


 おかしい。

 やけに静かだ。

 それに、なぜか開けてはいけない気がする。

 とても嫌な感じ。

 気になることといえばさっきの死神もそうだ。

 あまりにもあっけなかった。

 もしかして、あれは陽動だったのかもしれない。

 脳裏にそれがよぎったときには、あわてて医務室の扉を開けていた。


 ガチャッ。

 俺たちの目の前には、ベッドの上で眠る黒髪の女性の姿があった。

 顔には白い布がかけられていた。

 その光景に俺たちの足は止まる。

 これ以上進めない。

 言葉がでない。

 どうしたらいいんだ……。

 混乱する脳みそで必死に考える。

 セメコ……。

 そうだ。セメコを励まさないと。

 だが……。


「セメコがいない……」


 セメコがどこにもいなかった。

 まさか、さらわれたんじゃ――

 

「タツヒコたち遅いよ」


 突然、カーテンからニュッとセメコが登場する。


「「「うぎゃあああああ!」」」


 絶叫と同時にラキと魔王が俺の腕に抱きつく。

 ラキはちょっと嬉しいが、魔王はすぐ離れろ!


「なにやってんの三人とも?」


 セメコは、俺たち三人の姿を見て首を傾げる。


「お前が言うなお前が! お前こそこんなときになにしてんだよ!」


 俺の言葉にセメコは首をかしげた。


「なにって儀式よ」

「……? ぎしき?」

「うん」

「いや、うん。じゃねーよ! お母さんが遠いところに行ったんだぞ! 儀式なんかしてる場合じゃねえだろ!」


 俺は溢れ出す怒りをセメコにぶつけた。


「……? 遠いところなんて行ってないよ。そこにいるじゃん」


 セメコは、そう言ってベッドの上にいる母親を指差す。


「いや、そうだけど! 目の前にはいるけどもう! あの顔のとこの布とかホラッ! 言いたいことはわかるだろ!」


 俺は精一杯言葉に気をつけながら言いたいことを伝えた。


「あー、あれね。あれは儀式のひとつだよ」

「は?」

「だからー、お母さんが目を覚ますオマジナイだってばぁ」

「いやいや、そういう次元じゃねーよ! クソッタレなイタズラだよこれ!」


「――んー……うっ」


 そのとき、ベッドから黒髪の女性が起き上がった。


「お母さん!」

「「「――!?」」」


 ついに。

 ついにセメコと母親が再会するときがきた。

 俺たちは感動したがらその光景を見守る。


「お母さん! ねぇ、お母さんってばぁ! ずっと探したんだよ!」

「……」


 セメコの母親は、なにも言わずセメコを見つめていた。

 そして、ゆっくりと口を開ける。


「あなた誰?」

「えっ?」


 医務室は、お通夜のように静まりかえった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生スキルとドラゴンマスター☆セメコ! 尾上遊星 @sanjouposuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ