第22話 津波

 「それはそれは大きくてのぉー、横にも長くてのぉー、陸に近付くにつれて、どんどん、どんどん、高く大きくって行くんじゃ」

 「あんおばあちゃん、何が大きくるの」


 「う~ん、春奈はるなは海、行った事ないのかぁ~」

 「去年の夏に行ったよ、お砂遊びしてたら、ざぶ~んって、海に連れていかれそうになった」


 「お~、それはこわかったのぉ~」

 「パパとママが大急ぎでつかまえてくれたぁ~、ママの顔がこわかった」


 「そうじゃろうそうじゃろう、しかしなぁ~この波はなぁ~、春奈はるなを連れて行こうとした波より、ずぅ~~~っと大きんじゃ」

 「どのくらい、春奈はるなより大きい」


 「あ~~~、大きいぞぉ~、どれ、春奈はるなちょっとひざから降りてみ」

 「うん」するとあんおばあちゃんが中腰ちゅうごしになった。


 けど。「よっこらしょ、あいたたた」

 私のあほ、おひざ上に座るから。

 そしてあんおばあちゃんは、私を前にして。

 「いいかぁ~、波はなぁ~、遠くにおる時はこんなよ」

 あんおばあちゃんは体を小さくして、少し曲がった背中を丸くした。


 「ふ~ん、春奈はるなよりちっちゃい」頭をぽんぽん。私のばか。

 「そうしてのぉ、段々、浜に近付いてなぁ、浅くなると、おーーーきくなってゆくっじゃぁーーー」


 あんおばあちゃんは、幾らも無い私との距離を、少しずつ詰めていった。

 そのたびに、両手を上げて行き、少しづつ立ち上がる。

 でも、足がしびれてただろうし、高齢のあんおばあちゃんにはささえきれなかった。


 すったん。ガシャン。近くにあった食器に当った。

 「ふにゃー」「ありゃ」「あんおばあちゃん」「お母さん」「おぅ~」


 「…春奈はるな、大丈夫かぁ~」「…にゃははははは、大丈夫ぅ~」

 「あぁ~、ありがとうよ、大丈夫じゃぁ~」

 「気を付けて下さいよ、お母さん」


 「足がしびれとっただけじゃぁ~」

 「…あんおばあちゃん、…大丈夫」


 「あぁあぁ大丈夫大丈夫、ええかぁ~、波はなぁ~、こうやってのぉ~、陸に近付いて、浅瀬あさせに来ると、背が高くってのぉ~、さっきのばぁ~ちゃんみたいにの、上から落ちて来るんじゃぁ~」

 「あんおばあちゃんなら、春奈はるな良いよ」


 「あ~~~、いかんいかん、直ぐに逃げんと、お家に帰れん様になるぞぉ~」

 すると、あんおばあちゃんは、私の両わきをがしっとつかんで。

 「にゃ、にゃははははははははは、あん、にゃははは、おば、はははははは」


 「どうじゃっ、直ぐに逃げるかぁ~」

 ばたばたばた。「に、にゃははははははははは」


 ばたばたばた。「逃げるかぁ~」「にゃははは、に、逃げるっ、はははははは」

 にゃぁ~~~、思い出しただけでも、くすぐったくなるぅ~。



 「春奈はるなのお家は、マンションかぁ~」

 「うん、10階」


 「そうかぁ~、ポセ様の起こした地震でのぉ、迫って来た津波はなぁ~、ばぁ~ちゃんよりも大きくてのぉ~、春奈はるなのお家よりも大きんじゃぁ~」

 「えーーー、早くにげなきゃ」


 「わろうて、忘れてしもうたかぁ~、み~んなお空の上に逃げとる」

 「あっ、そうだった」



 「な、…な、…何っすか、近付いて来たから大きく見えたんじゃなくて、浜に近くなって行くにつれて、せり上がって、めっちゃ大きくってるっすよ」

 「あ~まぁ~そうだな」


 「何落ち着いてるっすかっ」

 「だって、…俺の所為せいじゃないし」


 「なあああーーー、ポセ様、それでも神っすかっ、どうするっすかっ、白波が浜の奥行きの倍以上あるっすっ」

 「あ~そうだな、凄いな」


 「がぁーーー、何すかっ何すかっ」

 「や~、や~め~て~、揺するなっ、どうにもならん、厄災やくさい達を回収できん」


 「イーリス様っ、あれあれ、見てっ、灰色の水煙っ」

 「どうして水煙が灰色なんっすかっ」

 「あ~~~、海の底の泥を巻き上げて来たんじゃないかな」


 「うきぃーーー、何、で、平然と言えるっすかっ」

 「だっ、だから、や~め~て~、揺するなぁ~、しゃぁ~ないだろう」

 「イーリス様、あ~し等どうなるのかな」


 「だっ、…大丈夫っす。ここにたよりになる男神おとこがみがいるっす」

 「無茶むちゃ言うなよ。俺にるなよ」



 「そうしての、大きな津波が何回もやって来てのぉ~、浜の貝殻かいがらさらう様に、寄せては引いて、また来ては引いてのぉ~、雨で流されて来た、木も、草も、岩も、石も、何もかんもさらって行って、残ったのはのぉ~、真っ黒な土で覆われた、広い広い平地へいちだけじゃったぁ~」



 「ぐひひひひっ、やっとおでの御出おでましじゃ~」

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死が解き放つ パパスリア @inOZ

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