3話 波の花中学・納涼異世海クエスト!
私は鈴木
この波の花学校では何故か、異世界からやって来る変な異星人‥もとい、侵略者が虎視淡々と狙っていて、私はもう一人の外来種魚学生と共に、この学校を守る為に生徒として通ってるの。
それはそうと今日は波の花中学では毎年夏に校内で行われる納涼浴衣祭りが開催されるの。この日だけは皆んな制服を誰も着ていなくて浴衣姿。現在特設ステージでは順次イベントが繰り広げられて、今かき氷の早食い大会がやっているのよ!
私のクラスも後から出る予定で、校舎から出てきたクラスの皆んなが小道具を手にステージの方へと向かっている。その中に混じっている気の弱そうな短い短髪の後ろ姿を目にすると、私の気持ちは一変した。
彼の名は
「小坂くーん」
そう呼びながら嬉しさを隠せない表情で集団の中に入っていくと、私は突然殺気を感じた。
「はっ!」
横から来る何かを避けるように後方に反転した私は跳びながら掌を向けて来る者の攻撃を避け、手と手の刃を交わした!
「皆んなお疲れ様〜」
でかい声で周りに気を遣うこの女は涼木ヤーミ。ブラックバスの擬人化女で私と共に学校を守ってるのだけど‥
こいつは私を見ると思いっきり下品な笑い顔で言葉を発してきた!
「優実、待ちくたびれたー?つい居眠りしちゃってヨダレ垂らしちゃったんじゃないー?」
何なの!?相変わらず空気も読まずに人のプライバシーにズカズカ入ってきて!
「ヤーミ、別に呼んで無いし、待ってもいないから」
「何言ってるの、私たち演劇でダブルヒロインを演るってのに、ねー1」
思いっきり棒の声色で呟いた私を無視して今度はクラスメートの子たちに聞いてくる。
「そうだよ。三年生の後だから頑張らないと」
「でも、もうすぐダツト先輩達のバンド演奏が始まるっていうから、私もちょっと観たかったなぁ」
「まあそれはしょうがないとして優実、あんたの棒演技期待してるわよー!顔も棒だけど!」
「うるさいわね、このオーバーリアクションが!!」
「ちょっと。早く準備しないと私たちの順が回ってくるわよ」
言い合いになろうとした私たちの間に入ってきたのはクラスメートの
「これは主人公のウラシマくん(主演尚)がある日海で一匹の魚を助けた。その後突然現れた使いのウミ(優実)に海の星という世界に連れられて、そこで出会った海星の姫(ヤミ姫)からこの星が略奪や破壊を受けていると聞かされ勇者になるって話だけど
ウミとヤミー、練習ではあんたたちいっっつも途中からウラシマの取り合いしちゃってるでしょ!そういうのはホント止めてよね!
それにこの作者、こんなしょうもない話しか創れなくてホントしょうもない。だから私考えてストーリーちょっと変更したわ。
ウラシマに助けられていたウミはクライマックスで瀕死になったウラシマくんを救って、魚に戻った姿で再会するの!
タイトルは《魚の恩返し》よ。どう?これは感動するでしょ!!」
「確かに良い話だけど‥それ、テ○ィスや」
まあ、この小説がちゃんと話が進む事が無いってのは解ってる‥と思いつつも、私たちは準備に入った。私たちの演技、期待してて!
僕の名は小坂尚。納涼祭はタイムテーブル順にイベントが繰り広げられ、次の僕たちの公演が始まるのを待ちながら学校グラウンドの特設ステージの方を覗いて見ると場内は観客で溢れている。
「きゃー、ダツトセンパーイ!」
湧き上がる歓声の中、メンバー達は楽器を手に浴衣姿で次々と現れる。彼らが奏でた楽器がアンプを通して大きな音で鳴り響き、最後にボーカルのダツトが現れようとした時に、突然異変が起こった①
ボーカルのダツトを差し置いて割り込んでステージの前面に立ったのは泥酔した用務員の通川仁さんだった。
「あのおじさん‥カラオケ大会と勘違いしてステージに上がったよ」
「わーたーしーのーーお髭をージョリジョリーー
しーなーいで下さいーーー」
「ふざけんなボケ!おっさん引っ込め!!」
追っかけ女子達のブーイングが巻き起こる中、ステージ上でマイクを離さない通川さんはやっとの事で引き摺り下ろされるが、結局彼らの演奏は
「次は僕たちの出番だ」
ドキドキと心臓を昂らせながら僕たちの演目、「魚の恩返し」が始まった。
さっき迄の観客は殆ど居なくなり、ウラシマくん演じる僕はまばらな拍手の中ステージに現れると、海に見立てた段ボールの箱に糸を投げる。
竿を上げ、釣り糸にかかったと同時に魚が出てきて優実ちゃんの声がする、という演出のところで異変が起きた②
ところが僕の釣竿は何かに根がかりしたかのようにピーンと張ったままだ。
「え?何?」
見ると、裏方の子が居る筈だった段ボールの中はいつの間にか異次元の水と化している。どういう事!?‥と焦り出すと、マット君が嬉々とした表情でステージに跳び上がってきた。
「これは何かが掛かったんだよ、ボクがやる!」
僕が釣竿を引くのをマットくんが手伝うと、それを皆んなが固唾を飲んで見守った。
格闘の末15分。
「見えた!‥ん?」
水面から何かの影が見えてくると、大きな平べったいものが全身をひらひらとさせて動いている‥
ばふっ!ばふっ!!という音と立てるこいつの姿を目にし、今まで汗水を垂らしていた僕たちは途端に邪魔くさそうな表情になっていく。
それでもやっとの事で引き揚げ‥足元に姿を現したのは‥
一匹のエイ‥!?
その時また異変が起こった③
「ふふふ私の名はエイ・リアン‥貴様らは我らと同化し下僕となるのだ!」
どこからか声が聞こえて来る。
すると、このエイは段ボールに居た裏方の子なのか!?
それを見て怖くなったマヤちゃんがその箱をステージ下に放り投げた。
下に落ちた段ボールの中の異世界は異光を放ちながら広がっていき、そこに居た観客達をどんどん呑み込んでいく。
そして突然、見えない敵に右往左往していた僕たちの前に波校長が現れる!
「させません!!」
波校長は手に何かを掲げ、それを発しようとした時、彼女の周りに暴風のようなものが吹き荒れ手にしていた物はあっちの方向へと飛ばされた。
「早くあいつを倒さないと!!」
「貴様らは邪魔をするな!!」
袖から現れた優実ちゃんとヤーミちゃんだったが、飛び出そうとした突如、二人は衝撃波を受けるように弾け、バリケードに覆われると僕たちとは別の空間に遮断され、異世海に囲まれた。
波の花中学校グラウンドは岩や雑草が広がる世界へと変化したのだった。
「エイ・リアンを倒すべくアイテムを使おうとしましたが、奴らに阻止されてどこかへ飛ばされてしまいました」
波校長は淡々とした口調でこの場に残っている僕たちに話しかける。
「此処に残っている皆さんにお願いがあります。異世海にエイの異星人となった生徒達を救いつつ、とあるアイテムを見つけ出してきて下さい」
というわけで僕たちはマップと化した波の花校下を練り歩きながら異世海に潜む恐るべしエイ・リアンを釣り上げ、じゃなくて救出しつつアイテムを探す事となった。
「僕たち、名付けて異世海クエストかー」
僕の居るパーティーは他に宏とマットくんと水門海くん、通川さんやマヤちゃん。
流石に浴衣姿じゃ戦えないという事でアウトドアスタイルに身を投じ、とにかく奴らがいそうな水辺周辺、じゃなくて異世海周辺を練り歩きつつエイ・リアンを次々と見つけ戦っていく。
とにかくマップ内のエイの居そうな場所を何度も巡回、ローテーションを繰り返し粘りながら救出を続けていたが、僕たちの敵はエイだけじゃなかったんだ。
ここから水門海の呟き
「何で私が釣りなんかしなくちゃいけないの‥そもそもこんな場所歩き回ってちゃ誰だって危険でしょ」
歩きながらぶつぶつ呟いているマヤちゃんにとにかく重装備姿の通川さんが自分のごっつい足元を見せながら自慢げに口を開いてきた。
「このロングスパイクブーツ、これさえあればどんな草むらやぬかるみも入れるぞ。このダンジョンの中心部に出来た特設売店で売ってるから君たちにも買ってやろ「いらない」
通川さんの言葉を遮るように遮断したマヤちゃんは続けて言った。
「おしゃれなギャル向けが売っている
私、此処で待ってるから君たちだけで楽しんで来てよ」
ふてくされながら草原の岩場にどかっと座ったその時、俺は何かを感知した!
「はっ!」
振り向いた波瀬くんが小声で皆に囁いた。
「僕たちは後を付けられている‥」
そう思った矢先、何者かが突然抜け道から前に出て来るとそいつらは俺たちのいく先へ一直線に向かう。
「おま‥お前もかーーー!」
「この戦いは言わば場所の取り合いだ。このポイントは俺たちが先に行かせて貰う!」
同じ学生の
するとまたまた異変が起きた④
「きゃははは!あんた達の手に入れたい物、あたしが持ってるのよ!!」
突如異世海から手に白い鞭のような物を手にした巻き髪ツインテールのいかにもぶりぶりした女が俺に挑発するような顔で現れた。
「私の名はアニー。あんた達を苦しめる為に呼ばれたの」
「アニーって、きっと『アニサキス』の事だよね‥」
けっ、胸糞悪い。こんな奴に負けてたまるか!
俺は奴の前に立ちはだかると、ゴー‥ン、ゴー‥ンと共に俺の背後から爆水が迸った!!
「水門は開いた。
くらえ、水流の舞!!!」
畝る水が次々と奴を襲う。しかしそれを難なくすり抜けた奴の白い鞭が俺の眼前に飛び込んだ!
激痛と共に何かを喰らった俺。
‥いつの間にか俺は、自分の意思とは関係なく仲間である筈の
「お前のそのお腹‥もふもふしてやるぅー!!」
無意識に爆水を浴びせようとする俺にマットと通川のおやじが立ちはだかるや通川のおやじがロングスパイクブーツで水流に耐えながら俺の攻撃を阻止して俺をぶん投げ、アニーは再度白い鞭を振るい放つ!
「くっ!、アニーフ○ッシュ!!」
マットに直撃した白い鞭は彼の硬質素材の体には効かず、それを掴んで何故か持っていた刃物で切り刻む!
白鞭は彼女と一体化していたのか細切れになるとアニーはあっけなくやられた。
気がつくと俺は土備の胸。いや、腹の中だった。
『あ‥あっちゃかい』
彼のお腹はこたつ中弱程の暖かさ。じんわりとした感触に冷え切った身も心も温まる‥‥
我に帰ると、彼は何かを言い残して俺の元から離れた。
草むらの中を掻き分けて行く土備君を見送りながら‥俺は嬉しそうに小坂達に告げた。
「実は俺‥この戦いが済んだら、彼と食事に行く約束をしたんだ」
「へえぇ、良かったじゃない」
「ディナーは
そう言った俺に心配そうな顔をした彼ら。また同じ過ちを犯すのだろうか?と内心思ったかのような‥
ここからヤーミの語り
アニーが敗れ、彼女が落としたアイテムの箱を囲んだ彼ら。
「アイテムって一体何だろう‥?これさえあればエイ・リアンのラスボスを倒して元の世界に戻るんだよね。彼らを倒す道具とすればエイの天敵の《シュモクザメの刃》とかかな?」
彼らは一呼吸置いて、一斉に箱の扉を開いた。
期待に胸を膨らませる彼たちの前に、その全貌が現れる‥!
「‥これは‥‥?」
箱の中にあったものを目にした彼らは一斉に目が点になる。訳が解らない彼らの前に、波校長が現れたわ。
「それで彼らを救う事が出来るのです、その名も《ホタルイカッパ》」
「ほたるい‥‥‥かっぱ?」
すると、私たちは大きな図体を目にした!
「おほほほほ、私こそこの異世海の首謀者、エイ・ドリアン様だ!!」
ダイナマイトボディの私と同じ異国風の金髪女は腰にやたら長いアイスピックみたいなのを装備してる。美人っちゃー美人だけどね。まだ何もしないのに、何故か全員散るように逃げ回った。
「うわっくっせ!」
「何だ、この強烈なオイニーは!」
そう言いつつエイ女は異臭と共に異界の異物をぶちまける!
すると箱の中から雨具が一斉に眩い光が飛び出した。海にも山にも、それを纏ったエイ・リアン達は星のように天に上がり輝いた。
私と優実も封印を解かれバリケードが解かれ、奴と戦う姿に変身した!
飛び回る異物をほたるいかっぱとマットが笑いながら自分の体に吸収し無効化していくと優実は空を舞い、イナバウワーを披露するとくるくると回転しながらエイドリアンに攻撃する!
「私たちシュモクザメじゃないけどね、あんたをやっつける!」
攻撃を受けながらエイドリアンは叫んだ。
「バス小娘なんかに負けないわよ!!」
奴が
奴の懐に飛び込んだ私は、体ごと反転しながら思いっきり蹴り上げた!!
倒れた奴は波校長の手によって封印されて消えていった。
クライマックスは尚の語り
元に戻った学校。納涼祭のイベントは変わってしまったけど、僕たちの演目は後日演るという事で幕を閉じた。
生徒達も元の姿に戻ったけど、空にはまだ、ほたるいかっぱの名残でキラキラと波に漂うように輝いてる。
「綺麗ね、尚」
そう言って僕に微笑む優実ちゃん。しかしそのときめきもすぐ消えてしまう。
「優実ーあんたまだ匂うけど、でっかいオナラでもしちゃったのー?」
優実ちゃんは突っかかりながら笑うヤーミちゃんを睨むと向こうへ消えていく‥
ちょっと風変わりだけど楽しい仲間達。
僕たちの学校ライフは、まだ続く(多分)!
すずきさんと黒すずきさん〜波の花中学編 嬌乃湾子 @mira_3300
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