−4
仁はヒュッ、と竿を降るとプールの水面にルアーを放った。銀色の体に緑色の背を輝かせ、素早い速さで泳ぐ鰆はギザギザの刃でマットタイガに喰らいついた。
「YEAAAAAA!!!」
仁は歓喜の表情で弓形(ゆみなり)になった竿を引きながらルアーを巻くと、理威琉の声が響いだ。
「スバラシィサオサバキ!!センセイトヨバセテクダサーイ!!」
鰆が地上に引き上げられ歓喜の声が響いたが、そんな仁に皆無反応の顔で言った。
「あいつ‥‥今までクソ面白く無い顔してたのに、今は滅茶苦茶楽しそうにしてるよ‥‥!」
水中にいた尚は水底の海藻と一粒の貝を掴んだ。
向こうから、大きく広げた体に鋭利な針のような尾を引いて、エイが泳いでくる。
尚に近づいた直前でエイはマットの針に引っ掛かかり、一気に釣り上げられるととっさに水上に顔を出した。
空に海藻と貝を思いっきり投げた尚は、そのまま水中へと沈んでいった‥‥
早良、英子、詩路美、若芽の四人は宙に飛びながら元の姿に戻っていた。
ルアーから擬人に戻ったマットは更に自信を分裂させてジャンプすると、その一人が掴んだ英子を抱き抱えて空中を飛んだ。
『‥‥な‥‥何?いきなり!』
英子はマットの腕の中で突然の出来事に戸惑った。疑心暗鬼の中、心の中の動揺を隠すように。
『ーーこれは、私を陥れる何かの罠?それとも‥‥!?』
マットが英子を地上に下ろすと、同じく分裂したマットに助けられた詩路実と若女と鉢合わせた。
「‥‥‥‥‥!!!」
目が合ったまま三人は一瞬無言になったが、一体化し元の姿に戻ったマットを見つけると英子は呼び掛けた。
「多伊賀くん‥ありがとう。さっきは酷いこと言ってごめんめ」
「僕は別に気にしないよ」
そう言ったマットは向こうを向いたままだった。
「僕は、岸からメーターオーバーのブリを釣る事が夢だから!」
無心の笑顔で去っていったマットに絶句して立ちつくした三人、そんな彼女達を睨みつける者がいた。
『お前ら‥俺から乗り換えやがって‥‥!』
早良健二は内心むかついていた。そして突如心の叫び声を呻き始めた。
「遠い昔の事だった。
俺は小学校の頃、有名だった学校の附属クラブチームに入ろうと願書を出した。
しかしその時のコーチから言われた言葉、
『うちは強化校だからどれだけ頑張ってもレギュラーにはなれないよ』と。
その後どれだけ頑張ってもレギュラーにはなれず、中学になる前に俺はこの学校を辞めて波の花中学のバスケ部で練習した。
だがいくら頑張って練習しても奴らには勝てず、試合をする度に散散言われた言葉がこうだ!
あいつらがうちの学校に勝つ事なんて出来っこないよ。ましてや、波中の連中なんかにね!!
ふぅうざけんじゃねぇぞぉ!!!」
その光景を見ていた優実は英子と若芽と詩路美に言った。
「じゃ、私は尚を探しに行くわ」
英子と若芽と詩路美はこの場を離れようとする優実を止めた。
「鈴木さん、先輩はどうでもいいの?」
「想う人が違うわ。私は叶う事ができなくても」
「どう言う意味?」
「あなた達も自分なりに伝えたらいいじゃない」
優実は異次元の川に飛び込んだ。三人は顔を見合わし、くるりと振り返って早良の元へと向かった。
「先輩‥‥これ、私達からです」
そう言って手にしていたのは手作りのリストバンドだった。
「私たち先輩に頑張って欲しくて作りました。応援しています!」
「‥‥ありがとう」
早良は三人に微笑むと宏は内心しょうもないと思いながらぼそっと言った。
「そういや、鈴木さんと尚は」
水流に流されバランスを崩していた尚は意識はあった。逆さまに沈んだ体制を必死で戻そうとした時、彼は向こうから何かが来るのを察知した。
『‥‥‥‥鈴木さん!!』
尚の方に向かって、水を切る水魚のように泳いでくるのは一人の女の子、
優実の顔は獲物を狙うようにニコッと笑うと、一気に尚を捕まえた。
異次元の川の水面に波紋の輪が広がった途端、バシャァァ!!と大きな水飛沫が上がった。
現れた優実は尚を抱きしめ地上に上がって来た。
「あんた、狙ってたでしょ!」
「なに?人聞き悪いわね」
再び優実とヤーミの言い争いが始まった。それを尻目に早良は爽やかに言った。
「今度の試合、頑張るから君たち応援頼むよ」
背を向け、体育館へと歩いて行く早良を見送った英子と若芽と詩路美ははしゃいで喜び、満足した通川仁は理威琉と共に異性界へと帰って行った‥‥
優実とヤーミ、尚と宏、マットと水門は笑いながら校舎へと入っていく‥‥
彼らの学校ライフは、まだ続く!!
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます