参加者たち(3)
船内のとあるカジノ。
そこでは二つのゴムボールが不規則に飛び跳ねていた。そしてそれは、赤いマントで体を覆った男に逐一攻撃していた。その威力はかなり強く、飛び跳ねる度に壁に無数のひび割れを刻んでいた。
飛び跳ねる度に威力が増し、マントの耐久力を削る。このままでは破られる可能性がある。ゴムボールの所有者が有利に働いているこの状況。しかし、それはある男の登場で幕を閉じた。
バンッ、とカジノの重厚な扉が開いたとたん、そこにいた男は弓を構えていた。
三本の矢が放たれた。
矢の軌道上に立つ男の脳天、胸、右肩に矢が刺さる。
そして、男は呆気なく倒れ、銀色の塵となって消滅した。
「助かったよ」
マントの男──
「いやいや、まさか仲間と出会えるとは幸運だぜ」
弓の男──
それから、弓庭の提案で二人は行動を共にすることとなった。
「俺を追っている奴がいるんだ。恐らく今も探してるだろうな。できれば会いたくないが」
二人は、カジノから出て、狭く薄暗い廊下を歩いていた。
「なら、二対一で倒せばいいよ。僕のマントで守るからさ。戦闘は任せるよ」
「ああ、もちろんだ。にしても、あんたのユニーク変わってんな」
「自分でもそう思うよ。攻撃できないし。でも、身を守ることに関しては最高だ──耐久力には限界があるけど」
長く、どこまでも続く廊下をひたすら歩く。
「見つけたぞ!」
背後から聞こえた声に二人は立ち止まった。
弓庭は、声の正体に気がついていた。真っ先に振り返る。そして、わかりやすく頭を抱えた。
「もう追いつかれちまったのか」
そう弓庭の視線の先には
「あんな逃げ方許さないからな」
美羽の額には汗が滲んでいる。
かなり探し回ってたみたいだな。そんな睨まれても、舌を出して挑発したのが余程気に食わなかったらしい。
美羽が、木刀を構えた。
やる気みたいだ。こんな狭い廊下では、伸び縮みする能力は使えない。それにこっちは守る手段があるし、攻撃手段もある。負ける気がしないな。
余裕の笑みを浮かべ、弓庭は弓を構えた。その隣では、園田がマントを靡かせていた。
そして、先に美羽が動いた。
問答無用と言った風に駆け足で距離を縮めに来る。
一直線の廊下だ。狙いを定める必要なんてない。
弓庭は、美羽に向け、三本の矢を適当に放った。
しかし、美羽の木刀によって防がれてしまう。
なんで当たんねんだよ。そろそろ指が疲れてきたぞ。このままだと……。
足を止めない美羽。距離は縮まるばかり。そこへ咄嗟に園田のマントが弓庭を覆った。
「ナイス! 助かったぜ」
俺にはこれがあったんだ。これなら、あいつが疲れてきた頃にじっくりとやれる。
そんな軽いことを思っていると、マントに異変が生じ始めた。
「すまない。そろそろ限界かも」
園田がそう言った。
マントにはもう無数の穴が空いていた。
「嘘だろ。どうすんだよ」
次第にマントが破れる。
「くっそ! 負けたくねえ」
そんなことを言っている間に、マントは完全に破れ、その隙間から美羽の視界を弓庭は捉えた。
そして、ただの布切れとなってしまったマントの上から木刀が勢いよく振られ、弓庭を吹き飛ばし、体は、その後ろにいた園田の腹部に直撃。二人して吹き飛ばされてしまった。
脇腹がえげつないくらい痛いぞ。じんじんしてる。このままだと──一直線の廊下だしな、逃げても追いつかれるだろう。仮に戦ったとしても、こうも近づかれては滅多打ちだ。
そう考えていると、美羽からの攻撃が迫って来ていた。
咄嗟に飛び避ける。避けた先、客室の扉があり、弓庭はそこへ逃げ込んだ。
何階かもわからない客室。ただ、扉を開けるとベランダに繋がっている窓があった。弓庭は、窓を開け、ベランダに出る。
ここプールに繋がってたのか。
下を見ると、弓庭が以前にいたプールがあった。
逃げ場がないならイチかバチかで飛び込んでみようかな。やられるよりかはましだろう。
手すりを掴み、身を乗り出す。
高いなあ。上手いこと水の中に飛び込めれば勝ちなんだけど。
深く呼吸をし、背後から美羽の足音を聞いて、弓庭は飛び降りた。
「なっ⁉」
ドボンッ、と、水しぶきが高く上がる。
センスあるな。水泳してみようかな。
弓庭は、水面から顔を出し、手すりから身を乗り出そうとしている美羽を見る。そして、彼女も躊躇いなく飛び降りた。
やっぱりそう来るよな。執着心の塊みたいな女だから、飛び込んで来てくれると思ったよ。
水面に体を浮かせながら、弓庭は弓を構える。狙いは、今まさに空中にいる美羽だ。
空中なら避けられねえはずだ。
そう願いを込め、全力の五本の矢を放ち、空中では木刀を操れなかった美羽に直撃した。
「やったぜ!」
嬉しさから腕を曲げ、喜びを表現する。
しかし、次の瞬間、弓庭の首が宙を舞っていた。
「えっ……」
美羽の体が空中で塵となって霧散したと同時、弓庭の体も塵となっていた。
そこへ、状況を把握しない園田が正規のルートを通ってやって来た。
「おい! いないのか!」
誰もいない、静けさだけが残るプール。その状況に困惑していると、背後からの攻撃に気づかず、胴体を切断されてしまう。
血は吹き出ない。切断面は
何が起きたのか、弓庭と同様、切られたのだ。
そこに立つ少女に。
ライフ・アップデート 渋柿塔 @sibugakimakoto
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