第4話 夕立

『のろま!何でこんなこともできないんだよ!!』

痛い…たたかないで…

『あんたなんて生まれてこなければよかったのに!!』

おかあさん…やめてよ…

『出てけ!クズ!』

程なくして、私は家を追い出された。

「あっ…雨だ…さっきまで晴れてたのに」

雨を防ぐ物は何もなく、私はあっという間にびしょ濡れになった。

「あーあ。もう、やんなっちゃう。」

私の吐き出した言葉は誰かが拾ってくれるはずもなく、暗い大通りで微かに響いただけだった。

「とりあえず…雨宿り…か…な…」

ふらふらになりながらも大通りをただひたすらに歩く。なにも考えず。見えてきたのは雰囲気の良い喫茶店。

「喫茶rain…か…。」

呟いた瞬間、視界がグラリと傾き、そのまま私は意識を手放した。














「いたたたた…」

激しい頭痛とともに目が覚めた。どうやら気を失っていたようだ。掛けられていた毛布をめくりながら今の状況を把握するために、辺りを見回した。すると、カウンターの奥から、女の人がこっちに向かってきた。

「良かったあ、目が覚めて。」

どうやら、この人が私を助けてくれたのかな…

「あ、ありがとうございます。えっと…」

「気にしなくていいよ。ケガもしてたみたいだから、手当てしちゃった。」

私の体は傷だらけなのに、綺麗に包帯とかの処置をしてくれたみたいだな。いい人…

「抹茶しかないんだけど、飲む?」

「いいんですか?」

「ちょっと待っててね」

そう言うと、カウンターの下をゴソゴソし始めた。取り出したのは…チョコ?

「お待たせしました」

目の前に置かれたお盆の上には抹茶(多分熱い)と可愛いチョコが乗っていた。

「いただきます。」

私が食べている間はなにも聞かず、じっと待っていてくれた。

「ごちそうさまでした。」

「熱くなかった?大丈夫?」

「はい。美味しかったです。」

「よかったあ~」

にこにこしながら感想を聞いてくる。優しいな…


「そういえば、こんな土砂降りの日に傘もささずにどうしたの?おうちは?」

お盆などを片付けて、戻ってきていきなりそんなことを聞くもんだから不意打ちで、涙が出てきた。

「ふむふむ…」

女の人はなにか納得したように2、3度頷いてから、私の方へ向き合った。

「貴女…名前はなんて言うの?」

大湊おおなみ 文音あやねです…」

「文音ちゃん。よかったら、ここで一緒に働かない?」


―その言葉は私のこれからの運命を大きく変えた。




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降りしきる雨 琴乃葉 @km603065

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