「誤解と偏見」

「…おい!そこにいるのは駄菓子屋の娘じゃねえか。

 どうした。何があった。あの家の双子はどうした。」


一人の男性が少女に気づき、

こちらに近寄ってくる。


みれば、クレーターの周囲にいた双子の姿は消えていて、

穴の中に残っていた二つのキューブもない。


「あ、わ…私…。」


その時、人混みをかき分けて、

一人の男がやってきた。


男は先ほど少女の記憶の中で見た父親であり

…そして、少女に近づいた瞬間、

男は彼女の頬を思い切り張り飛ばした。


「おまえは何をやってるんだ!

 人様に迷惑かけるなとあれほど言っていたのに、

 なんであの二人を連れ出して山なんかに行った、

 二日間も何をしていたんだ!」


…二日、あのキューブの出来事から、

すでに二日も経ってしまっていたのか。


すると、捜索に来ていたのだろう、

巡査と思しき男性が少女の肩をつかむ。


「なあ、マイコちゃん。本当のことを教えてくれ。

 おじちゃんたちはマイコちゃんのしたことを怒らないから。

 あの子達がどこに行ったか教えてくれるだけでいい。」


しかし、少女は首を振りポロポロと涙を流す。


「わかりません…ごめんなさい。」


その様子に大人たちは

頭を振って顔を見合わす。


「やっぱダメだな、あの家の子は。」


「ああ、見てるとイライラさせられるんだ。

 普段から何にも言いやしないし。」


「頭が弱いんじゃないかねえ、

 医者連れて話でも聞いてみるか?」


「あの双子もかわいそうに。

 あの子のお守りで道に迷って

 しまったんじゃないだろうか。」


…誰一人、少女が帰ってきたことに対して、

喜んでいる様子はない。


むしろ何も話さない少女に対し、

いらだちすら覚え始めている。


少女は泣くばかりで答えられない。


…それもそうだろう。

話したとしても信じてもらえず、

答えられるような内容ではない。


不思議なことに大人たちは少女の持つ

キューブに対して何も言及しない。


まるで少女にしか見えていないかのように。


そして、暗くなる景色の中、

辺りには少女のすすり泣く声だけが響いていった…

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