「呼び起こし」

「なあ、やっちん。キヨミさんはどうしてる?

 やっちんの叔母さんのキヨミさんは今、何をしてる?」


突然、焦りだす僕の口調に、

やっちんは首をかしげてからこう言った。


「キヨミ叔母さんなら大学の仕事を辞めて家にいるよ。

 前に数冊出した、鉱物学の本がそこそこ売れているから、

 隠居しながら家と民生委員の仕事をしてるんだって。

 親父も町内会長になっちまったから書類整理とか

 大助かりだってよく言って…」


「違う、何かキューブについて言っていなかった?」


どうして、どうしてこんなに

キューブについて聞きたがるかわからない。


だが、聞かねばならない。

聞いておかなければ現状がわからない。


すると、やっちんは「へ?」という顔をした。


「何で、キヨミ叔母さんとキューブが関係あるんだよ。

 叔母さんは鉱物学だぜ?機械とは関係ないじゃん。」


そして、やっちんは僕の顔を心配そうに覗き込む。


「どうした、なんか不安でもあるか?

 あ、そうだ。監督からもらったサプリメント飲む?

 なんか製薬会社から出ている試供品らしくってさ、

 頭の回転が良くなるとかってもっぱらの噂でさ、

 …ほら、一個やるよ。」


そうして手のひらにコロリと出された

カプセルには青い燐光の浮かぶかけらが入っており…


「あ!」


それを見た瞬間、僕の頭の中を

凄まじい勢いで過去の記憶が駆け巡っていく。


…そうだ、三年前。


僕らは小学生の時に、

この未来を知っていた。


キューブのかけらが蔓延まんえんする世界。


キューブの中の知的生命体によって発展するも、

後に見放され、誰もが死んでしまう世界。


…どうして忘れていたんだ。

どうして今まで当たり前のように見過ごしてきたんだ。


「…なあやっちん。今日はいつだ。

 僕ら小学生の頃から何年経った。

 僕らはどうしてこうなった、なあ、やっちん…」


僕がそう言って詰め寄ると、

やっちんはたじろぐように後ろに下がる。


「お、落ち着けよ。三年だろ?中学三年生だろ?

 どうしたんだよ。何かおかしいもので食ったのか?」


そう、僕は思い出す。


三年前に何があったのか、

どうして僕らが記憶を失ったのか。


…そうだ、僕らは未来の僕らに警告されたのだ。


あの選択は間違っていたと。

願いは間違っていたのだと。


そして、現代に戻る前に管理人を名乗る

市松人形にあって記憶を消されて…


その人形の姿を思い出した時、

僕の中でひらめくものがあった。


…そうか、どうして管理人は

人形の姿を取っていたのか。


そして、彼女は一体何者なのか。


それがわかった瞬間、

僕はやっちんの肩をつかむ。


「…なあ、やっちん。キヨミさんと話をさせてくれ。

 重要なことを話さなければいけないんだ。

 いますぐにでも彼女に協力を仰ぎたいんだ。

 今のキヨミさんの役職なら、それができるはずだ。」


やっちんは僕の剣幕さに目を白黒させ、

慌てて電話しようとスマホを取り出す。


「で、でもさ。なんで話したいんだよ。

 何か理由はあるのか?」


…ある、大有りだ。


そして、僕は自分のスマホの電話帳を検索し、

ある電話番号にかける。


その電話の先には…

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