「落ち度」

外に出ると冷え込みを感じ、

僕はカバンからマフラーを出すと、

首元に巻きつける。


やっちんも「今日は練習ないから自宅に帰るわ」と

一緒についてきて、なんとなく二人で帰り道を歩いていく。


「それにしても、

 この街も変わったもんだな。」


「…そうか?」


やっちんの言葉に僕は首をかしげる。


「だってさ、たった三年で商業施設が駅前にたくさんできて、

 観光の目玉にでもするのか展望台付きのビルまで建ってさ、

 まあ、郊外のショッピングモールは失敗だった気もするけど、

 ずいぶんと街並みは変わったような気がするぜ?」


「まあね…」


僕はそんな空返事を

しながら帰り道を歩いていく。


…でもそれは、

ほとんど変わらない毎日の一部でしかない。


誰それに彼女ができただの、

誰それが有名校に行くのだの、

そんなレベルの話であり、

僕らの日常には何の影響もない。


僕らは僕らのできることをして、

毎日を過ごすしかない。


それ以上に首をつっこむ必要もないし、

日々が平凡ならそれでよかった。


そして、駄菓子屋の前に差しかかった時、

ふと僕はその足を止める。


「お、どうしたマサヒロ?」


駄菓子屋は三年前からシャッターが閉まり、

それでも誰かが掃除しているのか、

あまりさび付いたり壊れたりした感じはしない。


普段なら通り過ぎる場所。

見向きもしない店。


しかし、今日の僕は、

なぜかこの場所に引っかかりを覚えた。


「…なあ、僕ら子供の頃に、

 この駄菓子屋に行ってたよな?」


するとやっちんは「ああ、そうだった」とうなずく。


「確か、駄菓子屋のばあさんが病気になっちまったんだよな。

 キヨミ叔母さんの聞いた話じゃあ独り身だったらしくてさ、

 一度は嫁いだけど出戻って、ずっと親の店継いでたらしい。

 重い病気も持ってたみたいで今も入院中らしいぜ。」


「へえ…」


…キヨミさん。


その名前を聞いてからふと思い出すものがあり、

僕はやっちんに聞いてみる。


「なあ、小学生の時に変なキューブ持ってなかったっけ?

 キューブの機械の端末を差したパソコンが変な動作してさ。

 キヨミさんのところにも持っていった気もするんだけど、

 …あれからキューブどうしたっけ?」


すると、やっちんは首をかしげる。


「ああ、それ俺もおぼろげなんだよね。

 その時、俺とユウリとマサヒロの三人で

 何かしていた気もするんだけど。」


そう言ってやっちんは「うーん」とうなった後、

「あ、そういえば…」と手をポンと叩いた。


「そのパソコンだけどさ、

 あの後、マサヒロの親父さんに渡して

 診てもらったんじゃなかったっけ。」


そこで、僕も思い出す。


…そうだ、パソコンが端末を差した状態のまま、

やっちんの部屋で正常に動作しなくなったのだ。


パソコン自体は誰かのものだった気もするが、

そのあと連絡も来なかったことを考えると、

それほど重要じゃあなかった気もする。


そして、エンジニアをしている

父さんなら直せるかもと渡したけど、

端末と附属についていた機械のせいなら

さらに上の業者に渡したほうがいいってことになって…


その瞬間、僕の首筋を冷たい汗が流れる。


…それからパソコンは帰ってきていない。


端末を差したまま、

元の機械であるキューブを三つ渡したまま…


なぜかはわからない。


しかし僕は、その出来事が今までの中で

一番重大な失敗を引き起こす原因に

なってしまったように思えてならなかった。

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