「再会」

「…ちょっと、何なのアンタたち。

 私、これから富田くんと

 食事に行く予定だったんだけど。」


そう言って、やっちんの家の前で

スマートフォンを手かがみ代わりに髪型を直すユウリ。


その姿はどこか大人びていて、

僕は制服ながらもその様子に

ちょっとドキドキしてしまう。


「えっと、呼び出してごめん。

 ちょっと三年前のことが気にかかって。

 これからキヨミさんに会うんだけど、

 ユウリにも付いてきて欲しくて。」


その言葉にユウリは上目遣いに僕を見る。


「それってカメラ映えする?

 一緒に撮っておくと私のフォロワー増える?」


仕草は完全に可愛い女の子のであり、

僕は目のやり場に困ってしまう。


「…いや、増えないと思うけど。」


途端にプイッとそっぽを向くユウリ。


「じゃあ、意味ないじゃない。

 三年ぶりにどうとか言うから、

 何か面白いことでもあるかと思ったのに、

 …私、忙しいからこれで家に帰るね。」


「いや、待ってくれ。」


そう言って、ユウリの腕を取る僕に、

やっちんがオロオロとした様子で声を掛ける。


「お、おい。あんまり変なことするもんじゃないぜ。

 こいつフォロワーが多いからさ、敵に回すと、

 面倒なことになるになるぜ。」


ユウリもその言葉に応えるように、

スマホを片手に僕の顔を撮ろうとする。


「そうよ、『ストーカーされた』ってSNSに載せてやる!

 今すぐこの手を離してよ!」


そうして、今まさに、

全国に僕の顔がさらされようとした瞬間、

僕の口から出たのは意外な言葉だった。


「…そうだったよな。

 ユウリは写真を撮るのが上手かったよな。」


「は?」


僕に聞き返すユウリ。


「ナンバーずのデータを撮るのはいつもユウリの役目でさ、

 率先してデータを読み上げてくれたよね。

 スタンプラリーでも、あれは重要な役だったと思うよ。」


すると、僕から逃れようとしていた腕の力が弱まる。


「ナンバーず…スタンプラリー?」


何かを思い出しかけているのか、

瞳が揺らぐユウリ。


そこで、僕は最後の一押しと

ユウリに言葉をかけた。


「僕らは、これからキューブの行方を捜しに行くんだ。

 三年前に失ってしまったキューブの情報をキヨミさんから聞いて、

 僕らはこれから管理人のところへ行かなければならないんだよ。」


「管理人、キューブ…そうだ!

 私たちは小学生の頃に…!」


カシャンと落ちるスマートフォン。


ユウリの目には、

明らかに過去の記憶がよみがえっていた。


三年前の記憶、

スタンプラリーの記憶を。


…良かった、思い出した!


しかしその瞬間、ユウリの顔がみるみる赤くなり、

凄まじい勢いでガシガシと地面を踏みつける。


「ってゆーか、富田って誰よ!

 あいつ三日前に告ってきて、話聞いても、

 金持っている以外何もない男だったじゃない?

 それに私、三年間も勉強なんかせずに化粧して

 SNSで遊んで…バカじゃねえの!?」


…あ、まずい。思った以上に

ユウリに深刻なダメージが入っている。


やっちんはいつまでたってもオロオロしたままで、

先ほどの話で記憶が戻る様子もなく、

僕も特に止めようとはしなかったので、

はっきり言って現場は阿鼻叫喚だ。


「…うるさいねえ、

 人の家の前で騒がないでおくれよ。」


その時、玄関のドアが開き、

一人の女性が顔を出す。


しかし、その女性の顔を見て、

僕は一瞬、彼女が誰だかわからなかった。


「あ、すみません。叔母さん。

 マサヒロがどうしてもって言うから…」


そう言って、やっちんは女性に頭を下げる。

すると、シワの寄った女性はこちらを見た。


「…ああ、マサヒロか。ユウリも久しぶりだね。

 家に上がりなさいコーヒーを淹れよう。」


その声を聞き、

僕は少なからずショックを受ける。


…三年とはいえ、

人はここまで老け込むものか?


痩せた体、白髪の混じった髪。


そう彼女こそ、三年の年月を経た、

キヨミさんで間違いなかった。

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