「流れ星と行方不明の子供」

時刻は午後二時ごろ。


僕らは駄菓子屋を後にすると、

駅前の喫茶店で遅めの昼食をとることとなった。


トイレ近くの角の席。


かき入れ時を過ぎたので、

店の客は全体の半分ほどになっている。


「それにしても、あの店のばあさんが流れ星事件に

 ここまで関心を持っているとはねえ。ヨシノスケ、

 この新聞記事について知っているかい?」


キヨミさんはそう言うと、先ほど駄菓子屋の部屋で撮った

何枚かの新聞記事の画像をヨシノスケさんに見せる。


そこに書かれた見出しには

『流れ星、見に行った子供数人が行方不明』とか、

『行方不明の子供、未だ二人見つからず』と、

二人の子供の顔写真も載っていた。


僕はその顔をどこかで見たような気もしたが、

どうも思い出すことができない。


そして、元気のないヨシノスケさんは、

民家に不法侵入したのがよほどショックだったらしく、

ここに来るまで、しばらく黙り込んでいたが、

それでもタブレットに広がる画像の新聞を見て、

「…いえ」と言葉を濁してみせる。


「祖父の日記は読みましたが、

 落ちてきた隕石の欠片を拾ったとしかありませんでした。

 落下前後に子供が数人行方不明になっているなんて、

 そんな話、僕は知りません。」


それにキヨミさんは「うーん」とうなる。


「まあ、守秘義務もあるのかもしれないけどねえ。

 引っかかるのは最初に行方不明になった子供たちの苗字に、

 あの店のばあさんのものがあるということぐらいか。」


「え、マジマジ?…あ、ホントだ。」


自分でも確認しようと思ったのか、

身を乗り出してタブレットを見ようとするやっちん。


それをうっとうしそうにしながらも、

おばさんは見るに任せておく。


「…ま、そう考えれば、あのばあさんが流れ星事件の

 スクラップを積極的に集める理由にはなるわね。」


「それって、自分が関わった事件だから?」


ジュースを飲むユウリにキヨミさんは

「そう、その通り」と相槌を打つ。


「見た限り、残りの子供は見つかっていないみたいだし、

 捜索打ち切りになったのが悔しくって記事を集めたのかもしれない。

 まあ、今まで話に上がっていたスタンプラリーと

 なんらかの関わりもあるかもしれないけれど…」


と、そこまでいったところで、

ヨシノスケさんが絞り出すような声を出した。


「あの…先生。先ほどの調査について何かメリットはあったんですか?

 鉱石調査にしても家屋の侵入は法に触れると思うんですけど。」


それに対し、キヨミさんはキョトンとした顔をする。


「は、メリット?この新聞記事と駄菓子屋のばあさんが

 キューブと同じかけらを持っていたことがわかったぐらいだが。」


途端に首を振るヨシノスケさん。


「それじゃあ今後、鉱物をどうすれば良いかわからないじゃないですか。

 流れ星の記事だって民家に侵入した証拠で外部には出せないし、

 鉱物の今後の活用法とか、子供たちにラリーを強要する主催側について

 なんらかのアクションが起こせないかとか、僕は必死に考えているのに…」


それを聞いたキヨミさんが眉をひそめる。


「ヨシノスケ、あんたまさか、

 この鉱物を利益にしようと考えていないかい?」


途端にヨシノスケさんが

驚いたように身を引く。


「な、なんでですか?

 僕はただ、家屋の不法侵入が調査にしても、

 あまりにも道理にかなっていない方法だと思ったまでで…」


言いよどむヨシノスケさん。

にらみつけるキヨミさん。


一触即発の感じがプンプンする。


だが、大人の事情は置いといて、

僕らは机の上にある山盛りのサンドイッチと

大量のポテトをぱくつくことにした。


こういう時には、

下手に口を出すほうが損。


丸ごとのポテトを等分にし、

油でサクッと揚げたこの店のフライドポテトは

塩みが絶品で、またこの店に来たいなあと僕は思う。


そこで、キヨミさんは、

「ま、企業系の研究者ならこんなものか」と言って、

どっかと椅子に座り直す。


「まあ、何にしても手詰まりなのは確かだね。

 あるのはキューブとそれに付随する欠片。

 子供だけのスタンプラリーと流れ星事件との接点も不明。

 いっそキューブ内のデータが詳しく分かればねえ…」


そうプツプツ言うキヨミさんに、

ヨシノスケさんが汗を拭きつつ「え?」と声を上げた。


「だったらデータを引っこ抜けばいいんじゃないですか?

 付属の端末でキューブのデータがスマホに読み込まれているんですよね。

 だったら、パソコンに端末をくっつけて専用ソフトでハッキングすれば、

 データが丸ごとトレースできますし…何なら中身も見れますよ?」


その瞬間、僕らはハッとしたように、

一斉にヨシノスケさんの顔を見る。


「え…ぼ、僕、そんな変なこと言いました?」


再び、顔じゅう汗ダラダラにしながら、

たじろぐヨシノスケさん。


そこで、キヨミさんが

ヨシノスケさんの肩をつかんで言った。


「よく言ったヨシノスケ。

 さすが、海外に留学しただけの頭脳はある。

 早速、パソコンを用意してやってみよう!」


「え、ええ…」


たじろぐヨシノスケさん。


…その瞬間、グラスに入った氷がカシャンと下に落ちた。

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