No.09 「衣借りキツネ」

「キューブのデータ」

…結局、僕らは翌日に、

キヨミさんの研究室に集まることとなった。


あの喫茶店の会話での直後に、

ヨシノスケさんに電話が入り、

彼が実家に行くことになったからだ。


「お願いしますよ。父がこれ以上待てないって、

 パソコンとソフトも用意しなければならないんで、

 明日まで時間をください、お願いします。」


「いーや、待てないねえ。

 何より相手を待たせるもんじゃない。」


「困りますよお。」


まるで借金の取り立てのような会話だったが、

僕らも三連休の最終日があるので、それほど急いではいなかったし、

次回のめどもついたのでキヨミさんも最後には「しょうがないねえ」と

ヨシノスケさんを逃がしてあげることにしたようだ。


「でも、ちゃんと明日には、

 研究室には来るんだよ?いいね?」


「はいぃ!」


…そうして約束通りヨシノスケさんは

パソコンに向かって作業をしている。


パソコンは自前のものだそうで、

ウイルス対策としてネットには接続しておらず、

後ろにはキヨミさんが張っているし、

何だか物々しい雰囲気さえする。


研究時代の時にも、

こんな感じだったのだろうか?


僕はその様子を見ながら、

将来何になるかは考えていないけど、

進む大学だけは慎重に決めようと心に誓う。


その時、ヨシノスケさんの持ってきた

ノートパソコンが「ピー」という音を発し、

画面に数字と英語の羅列が並んだ。


「解析、できたみたいですね。

 コピーもしましたから端末を返しますね。」


そう言って、ヨシノスケさんは

端末をパソコンから引き抜くと、

ユウリに返す。


ユウリも、返した端末をスマートフォンに再び差すが、

特に動作は問題はないように見えた。


「じゃあ、起動しますね。」


そう言って、ヨシノスケさんが

コピーしたソフトを見ようとした瞬間、

突如、画面が真っ暗になる。


「え?」


そして、次に画面がつくと、

スクリーンいっぱいに広がるキューブの画像。


慌ててヨシノスケさんがキーボードを叩いても、

マウスをクリックしても、画面は変わらない。


…そして、


「お、キューブが?」


「嘘?反応している?」


「私のスマホまで…共鳴でもしているのか?」


そう、僕のスマホとキューブからも光があふれ、

キヨミさんとヨシノスケさんのスマホも同様に出す。


そして、全員のスマートフォンとパソコンから、

僕らには聞き覚えのない合成音が流れ出した。

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