「そびえ立つ巨大アリ」

気がつけば、

僕らは霧深い小石だらけの場所にいた。


遠くに見えるのは高い壁のようだが、

それ以上詳しく見ることはできない。


…巨大なアリが、

僕らの前に立ちふさがっていたからだ。


ギチギチと動かす口元は光沢のあるギザギザで、

顔の幅だけで三メートルはあるように見える。


これも、ナンバーずなのか?

何かのモニュメントじゃないのか?


今までの着ぐるみから連想するには

それはあまりにも巨大な姿をしていて、

僕は一瞬頭が追いつかず、その場に立ち尽くす。


「ちょっと、何ぼさっとしてるのよ!」


それに見かねたのか、

ユウリが距離をとってスマートフォンを構え、

巨大なアリを撮ろうとした。


ガチンッ


だが、アリの方が早い。


尖った顎の先を前に出すと、

ユウリの持つスマートフォンを弾き返す。


「うおおおおお!」


すると、やっちんがこの機会を逃すまいと、

素早くアリの頭部にしがみついた。


アリも、とっさにしがみついてきた

やっちんを振り落とそうと立ち上がり、

大きく頭を左右に振る。


「うわーあー!」


振られながらも、

決して離さないやっちん。


後ろ足で立ち上がるアリはとても巨大で、

僕はその攻防を手に汗握って見つめていたが…


「…はよぅ、手伝わんかい。

 怪獣映画じゃないんだから。」


ぽんと叩かれた肩には、

静かに怒るユウリの顔。


「こっちはこっちで霧の中でスマホを探さないといけないし、

 やっちんが時間を稼いでいる間に、

 さっさと下からスタンプできないか探ってちょうだい。」


「あ、はい」と僕は言って、

しぶしぶやっちんの元へと行く。


…正直、もうちょっと見ていたかった。


欲を言えば、こんな霧深いところじゃなくて、

街のビルとか橋とかを積極的に壊して欲しかった。


僕は今や天を衝くように立ち上がるアリを見つめながら、

弱点はないかとアリの周囲を観察する。


…それにしても、

この霧はなんなのか。


みれば、外に出ている霧よりも、

アリの周囲に立ち込めている

霧の方が量が多い気がする。


足元の小石もやや大きめで、

まるで上流の川沿いを進んでいるような感覚。


僕は、ちょろちょろとネズミのように足元をかいくぐりながら、

濃くなっていく霧にむせつつ、アリの腹部へと移動する。


そうして上を見上げると、

僕は思わず声をあげた。


「…あ、この霧、

 アリ全体から出ているのか。」


そこにあったのは、

琥珀色に光る巨大なアリの腹部。


アリの頭部よりもひとまわり大きなそれは、

中心部に人のような形を有している。


その周囲から水蒸気が立ち上り、

アリの体全体からも同じ霧が立ち上るせいで、

周囲はますます見えにくくなっていく。


…そんな霧を吸い込みすぎたせいだろうか?


僕はいつしかアリの巨体が、

さらに大きくなっているような感じがした…

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