「人の過去はズケズケ聞くものではない」

「なーヨシノスケってさあ、

 地元に何の用事があってきたわけ?」


頭の後ろで手を組みながら町を歩くやっちんに、

キヨミさんが「こら!ヨシノスケさんでしょ」としかる。


しかし、ヨシノスケさんは怒る様子もなく、

やっちんの質問にゆっくりと答える。


「あ、僕ですか?実家に挨拶もそうなんですけれど、

 中学の昔馴染みに会えないかなと思っていて。

 何ぶん、もう十年以上も疎遠な友人なもので。」


そこで、やっちんが屈託なく質問する。


「え、一緒の地元の人なんでしょ?

 何で会えないの?電話すりゃいいのに。」


「え…。」


言いよどむヨシノスケさん。


「ねえ、なんでよ?」


再び聞くやっちん。


その目は「ほら、早く答えてよ」と言っている。


「…えっと、僕が親が決めた進学先に行ったこともあって、

 別れ際に思い切りケンカしちゃったんですよね。

 実家に帰れば親同士の口から相手がどうしているかは

 聞けるんですけれど、どうも相手もままならないみたいで…」


視線をそらしながらも、

しどろもどろで答えるヨシノスケさん。


…さすがは、やっちん。

僕らがためらうような質問を平気でする。


しかし、再びやっちんの口がぱかっと開く瞬間、

何かを察したキヨミさんがやっちんを連れて、

さっさと前へと歩き出す。


「ほら、さっさと行くよ。

 時間がもったいないんだから。」


…うーん、さすがは叔母さん。

やっちんの扱いを心得ている。


そこで、ユウリが必死にフォローを挟んだ。


「…で、でも。こうしてヨシノスケさんが研究所で

 働いていることは良いことじゃないですか?

 昔からの夢だったんでしょ?」


だが、暗い目をしたヨシノスケさんは、

その質問に皮肉げに笑う。


「まあ…本音を言えば、働ける場所がそこしかなかったんです。

 進学先も親の決めたレールに沿って進んだものでしたし、

 地質学を専攻したのだって成績が良かったからに過ぎません。」


そうして、暗い表情で街並みを見渡すヨシノスケさん。


「結局、僕は夢を叶えるよりも、生きるため、

 自分ができることをするしかなかったんです。」


…どうしよう、空気が思っていた以上に重い。


そこで初めてヨシノスケさんは、愚痴っていた

相手がまだ小学生だったことに気づいたようで、

うっすらと浮かぶ目の下のクマを強調させつつ、

無理やり微笑んでみせる。


「すみません。夢も希望もないことを言ってしまって。

 ちょっと仕事で疲れていたみたいです…ダメですねえ、

 これだから残業込みの十一連勤の翌日は。」


…あ、なんかこれ以上は、

聞いてはいけない気がする。


そして、僕がこの先の会話を危ぶんだ時、

目の前に見慣れた駄菓子屋の姿が見えてきた。


「ああ、お二人とも待っていますね。行かないと。」


そう言って、フラフラと歩き出す

ヨシノスケさんにつられ、

僕らも歩みを進める。


まあ、状況は何であれ、

この場の空気から逃げ出せるのはありがたい。


…だがそう思った時。


僕のポケットに入れていた、

スマホとキューブが輝き出す。


「え?」


「おい、こっちのキューブが…」


それはやっちんとユウリも同様のようで、

僕らはよりにもよって駄菓子屋の店の前で、

再びラリーのために転移させられてしまったのであった…


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