「縮みゆく僕ら」

アリの体から立ち上る蒸気のせいで、

周囲の景色はさらに霞んでいく。


見ているアリはますます大きく感じられ、

スタンプできる箇所はないかと見上げるも、

なかなか見つからない。


その時、ユウリがスマホを見つけたのか、

霧の向こうからデータを読みあげた。


「『ジャイアントキリング、立ち上がったアリ。

  弱い立ち場から強いものへと変わる意思。

  体全体から対象を小さくするフェロモンを出す。』

  …じゃあ、私たち縮んじゃっているの?」


そこで、僕は気がつく。


…そうか、相手が大きくなっているわけじゃない。

僕らがどんどん縮んでいるのだ。


このままじゃさらに不利な状態になると考え、

僕は大声でやっちんに呼びかける。


「やっちん!今どこにいるんだ?」


すると、霧にまぎれながらも、

アリの胴体あたりからやっちんの声がした。


「おい!なんかこの背中がどんどん広く感じるんだけど、

 なんか目印になるものないか?キューブが押せないよ!」


…しまった!


僕はそこで気がつく。


おそらくアリのフェロモンは、

吸い込めば吸い込むほど体を小さくする作用がある。


つまり、アリに直接くっついているやっちんは、

僕らよりも大量のフェロモンを吸い込んでいるはずで…


「おーい、ここかー?」


そうして、霧から出てきたやっちんは、

すでにふた回りほど体が縮んでしまっていた。


やっちんの姿はそのままに、

縮尺だけが縮んだ状態。


声帯も縮んでいるせいか、

心なしか甲高くなったやっちんの声が届く。


「いったいどこにあるんだよお。

 マサヒロ、見えないかあ?」


下から見た限りでは見つからない。

上から来たやっちんも見つからない。


あと探すとすれば…

そこで、僕はあることを思い出す。


「足!足の関節は見たか?

 アリの足は胴体に集中しているはずだ!」


そう、上からも下からも見えないのなら、

真ん中を見ればいい。


やっちんは僕の声が聞こえたらしく、

胴体から足の付け根へとゆっくりと移動していく。


僕もアリの足によじのぼれば良かったが、

正直、木登り一つ満足にできない握力なので、

戦力となるかは疑わしいところ。


「どう?やっちん無事に見つけられた?」


そこにユウリも到着する。


そして、やっちんが腰のくびれあたりの関節まで来た時、

不意にやっちんの持つキューブが光り出すのが見えた。

 

「あ、ここか!」


同時にやっちんが関節に

キューブを当てるような仕草をする。


瞬間、アリが苦しそうに身をよじって暴れ出し、

はずみで手を離したやっちんの体が宙に浮いた。


「やっちん!」


「やっちん!」


「うわわわわー!」


僕もユウリもとっさに落ちてくる

やっちんを受け止めようと手を伸ばすも

距離がありすぎて届かない。


だが同時に周囲の景色が

変わっていくことに僕は気がつく。


地面に敷かれていた河原の石が、

どんどん小さくなってき、

霧が薄くなりアリの姿も縮んでいく。


そうして、落ちていくやっちんも、

だんだんと体が大きくなり…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る