「キューブへの調査」

『キューブを探ることから始めなさい』


「探る?」


「さぐる?」


…キューブについて、

調べることから始めろということなのか?


僕がそれを口にすると、

ユウリがメモを手にしながら、

感心したように声をあげた。


「あ、確かにそうかも。

 ラリーの内容にばかり気を取られていたけど、

 キューブ自体がなんなのかは調べていないわ。」


そしてやっちんは持っているキューブをくるりと回すと、

「これ、確かに変だよな」といって、

つるりとした表面をしげしげ眺めた。


「よく考えたらさ、これ何でできているんだ?

 濃い青色のキューブだけど、透き通っているしさ。」


それにユウリも気づき、

慌てたようにキューブを観察する。


「あ、前に端末を引き抜いた跡がまるでない。

 考えてみれば、これってどういう構造に

 なっているのかしら。」


僕もさわってみるが、調べれば調べるほど、

これが変な塊だとわかる。


素材も分からなければ、

どうしてこれが光ったり人を移動させたり

できるのかまるで分からない。


と言うか、今まで指摘されるまで、

僕らはそのことを疑問にすら思っていなかった。


そこで、ユウリが神妙な顔をする。


「…もしかしたら、疑問に思わないようにさせられていたのかもね。

 キューブで別の場所に飛んだ時にもすぐにフィールドの情報を

 獲得していたわけだし。」


ユウリの言葉に僕はぞっとする。


確かに僕らがキューブに疑問を持たなければ、

そのままだった話だ。


とすると、これを作ったのは一体誰なのか。


配っていたのは駄菓子屋のおじさんにしても、

店がすでに閉店になっている以上、

調べるとして一体どうすれば良いのか…


その時、やっちんが困ったように声をあげる。


「うーん、俺は嫌なんだけどさ、

 本当は嫌なんだけどさ、

 あるっちゃあるかもしれない。」


そう言うやっちんは腕を組みつつ上目遣いで僕を見ていて、

僕は経験則で知っているのだが、こういう時のやっちんは

確実に上手くいく案を持っているのだが、個人として、

どうしても提案したくないという気持ちがある。


なので、僕はからめてとして、

やっちんにこう提案してみることにした。


「嫌だったらやめてもいいよ、

 僕らは別の案を考えるから。」


すると、引きが苦手なやっちんは

さらに「うーん」とうなった後、

しぶしぶ、こうつぶやいた。


「いや、このキューブをに持って調べてもらえば、

 何かわかるかもと思ってよ。でも、マサヒロも知ってるよな?

 俺たち前にで出禁になったこと。」


それを聞いて、僕は「あっ」と思い出す。


…確かに、それなら何かわかるかもしれない。


さいわい、明日から三連休だ、

出かける時間ならたっぷりある。


ただ、問題があるとすれば、

やっちんの交渉能力にあると思うが…


「なあ、ユウリ。俺が電話をかけるから、

 交渉を頼まれてくれないか?

 俺口下手だからさ、この手のは苦手なんだよ。」


そう言ってノロノロとスマホをいじる、やっちん。


「まあ、いいけど…?」と言いながらも、

ユウリはこっそり僕に耳打ちする。


「ねえ、なんでやっちん、あんなに嫌そうなの?

 キューブを調べてくれるかもしれないところに

 電話かけるだけでしょ?」


それに対し、僕は苦笑するしかない。


…まあ、やっちんにとっては嫌な相手だろう。


何しろ今までやっちんの人生にとって、

その相手は天敵とも言える存在なのだから。

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