「離脱ルール」

同化メレオンに同化されてしまった

やっちんの動きは早い。


長い舌をピルピル伸ばし、

まるで糸を操るクモのように

雑居ビルのあいだを飛び移っていく。


僕は息を切らしながら必死に後を追うも、

なかなか距離は縮まらない。


「っていうか、あいつ逃げてばっかりじゃない。

 どこまでが有効範囲か分からないけれど、

 このままじゃあバリアに突っ込むわよ。」


先頭を切りながらも、

息ひとつ切らさないユウリがそうグチる。


…確かに、前のウサギの時には建物の周囲に

虹色のバリアのようなものが張られていて、

あれに引っかかったウサギを僕らはスタンプした。


でも、カメレオンはすでに十階以上ある

マンションの中間まで登ってしまっているし、

ここまで距離が離れてしまった以上、

どうスタンプしたらいいのかすら分からない。


「降りてくるまで待つ?

 でも、あいつが何をするか分からないし…」


そして、カメレオンの姿がマンション裏に回った時点で、

不意に僕らのスマホが鳴り出した。


『ナンバーず、有効範囲から離脱、

 繰り返します、有効範囲から離脱、

 一度めの転移輸送を行います』


「転移?」


そのアナウンスの言葉に、

僕らが首を傾げた時だ。


グイッと何かに引っ張られるような感覚がし、

気がつけば僕らはビルの屋上に…

カメレオンと同化したやっちんの真後ろにいた。


『ゲッ、もう転移したのカ?

 でも、あと二回でお前たちはおしまいダ!』


そう言って、カメレオンが取り出したのは、

どこから奪ってきたのか一台のマウンテンバイクで、

やっちんが飛び乗ると車体に四本の爬虫類の足が生え出した。


『これでスピードも倍、

 最後ニ車に飛び移レばフィニッシュだ!』


途端に凄まじい勢いでタイヤが回り、

カメレオンとやっちんと自転車がくっついた奇妙な塊は、

あっという間にビルの下へと駆け下っていく。


そこで、何かに思い至ったのか、

真っ青な顔をするユウリ。


「…残り二回?

 まさか!あの双子の死因って…!」


その時、スマホが再び鳴り、

アナウンスがこう言った。


『ナンバーず、有効範囲から離脱、有効範囲から離脱。

 これより、二度めの転移輸送を行います。

 …なお、クリア前の転移は三回限りであり、

 それ以降はペナルティとしてラリーの参加を

 永遠に剥奪されます。』


「まさか、私たち有効範囲から三回以上離れると、

 …ペナルティで死ぬの?」


そして、僕らの体は

二度目の強制転移で飛ばされた。

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