No.03 「同化メレオン」

「どうかしてる」

「…そう。私があのお店を知ったのはね、

 ミカとバディを組んでいた子が教えてくれたからなの。

 だから、私もお店について詳しく知らなかったし、

 おばあさんが入院していたことも知らなかったわ。」


そう言われてはどうしようもない。


わかっているのは、僕らが手がかりがほとんどない状態で

スタンプラリーに参加したということぐらいである。


…いや、僕らだけではない。

多分、他の子供もそうなのだろう。


みんな、このラリーに参加している時点で

何も分かっちゃあいないのだ。


だからこそ、開始三回目にして、

初めて犠牲になった子供を見たとき、

夜中にラリーのために叩き起こされた僕は心底驚いた。


「え、もしかして私たち以外のラリーの参加者?」


寝起き直後のユウリはパタパタとスリッパで近づき、

人気のない夜の路地裏で倒れている二人の子供の元へと向かう。


その子たちは地面の上で横になっていて、

まるで眠っているように見えた。


顔の同じ女の子が二人。

冷たくなって死んでいる。


小学校の中学年とおぼしき二人は、

それぞれお揃いの服と名札をつけていて、

名札には安田リカとリコと一字違いの名前が書かれていた。


彼女たちはスマホを片手に、

もう片方は何かをつかんでいたような形で、

僕はなんとなくそれがキューブではなかったかと察する。


スマホの画面は何度押しても真っ暗で、

すでに電池が切れているようだった。


「…心音も脈もない。外傷がどこにもないから、

 死因は脳いっ血か心筋梗塞かしら?」


救急救命士が父親だというユウリが

教えてもらった方法でテキパキと双子の体を調べ、

スマホで原因を検索しつつも、やがて首を振る。


「ダメ、わかんない。

 せめて病院に連れて行かないと。」


そう言って、119番に電話しようとしたところで、

ユウリは「ああ…」と声をあげる。


「ダメ、圏外。そういえば、

 今まで一度も試していなかったけど、

 こういう場合ってどこにも繋がらないのね。」


みれば、僕のスマホも同じで、

液晶の一番上のアンテナには

『圏外』のふた文字が並んでいた。


『マジやべえナ。ここは俺たチだけしカ

 いないみたイじゃねえカ!』


…そう、やっちんもそう言うくらいに

ここには人気がない。


それだけに、ここは危険で…

と、そこまで考えたところで気づく。


あれ?なんかやっちんの

言葉の発音おかしくないか?


僕はパッとやっちんの方を向いて、気づく。


なんか、やっちんが

四つん這いになっていた。


着ているパジャマは水玉なのだが、体全体が緑色。


それに、なんか長い舌を伸ばしているし、

飛び出た目玉は上下左右に動いている。


「『同化メレオン、他人の体を借りるカメレオン。

  知能は取り憑いた相手の能力に比例する。

  他の物質とも同化できるから気をつけよう。』

  …って、もう同化しちゃってるじゃない!」


スマホを見ながらパニックになるユウリ、

『じゃーナ!』とやっちんの体を借りたまま、

パッとビルの看板に舌を巻きつけて逃げていくカメレオン。


僕とユウリはその様子を追うため、

人気のない地方都市を走っていくほかない。


三日目にしてパジャマ姿で

スタンプラリーをするとは思わなかった。


僕は思わず、こうつぶやく。


「…全く、今日はどうかしているな。」

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